メス犬は「人の手際の良さ」を正しく見極めていた
犬は長い家畜化の歴史の中で人間社会での生活に適応し、私たちの行動や反応を読み取って巧みにコミュニケーションを取る術を体得してきました。
これまでの研究で、犬は友好的な人や食べ物を気前よく与えてくれる人に、より好意を持つことが明らかになっています。
その一方で犬が「人の能力面の優劣」にもとづいて、何らかの社会的な評価や判断を下すかどうかはわかっていません。
そこで研究チームは演技者に”有能な人”と”無能な人”を演じさせて、犬がどんな反応を示すかを実験することにしました。
実験では30匹の犬を対象に1匹ずつ2人の演技者の前に座らせ、それぞれの演技者がフタ付きの容器を開ける様子を観察させます。
一方の”有能な人”は約2秒でフタをスムーズに開け、もう一方の”無能な人”は少しモタついて約5秒経つまではフタを開けられません。
演技者にはこれと同じ動作を異なる容器であと2回繰り返してもらいました。
(観察の間は、犬が演技者に近づかないよう飼い主が後ろで抑えています)
その後、演技者に「ドッグフードの入った容器」と「何も入っていない空の容器」を渡し、フタを開封するよう指示。それと同時に、犬が演技者に近づくことを許可しました。
研究チームは、その一部始終を撮影した映像を分析。
その結果、2人の演技者が「ドッグフードの入った容器」を開け始めると、犬は”有能な人”の方を注意深く観察する傾向にありました。
特にメス犬でその傾向が強く、彼女らは”無能な人”には目もくれずに”有能な人”へと近づいていったのです。
反対に「何も入っていない空の容器」の条件では、オスメスどちらの犬にも反応に変わりなく、特別な注意は払いませんでした。
研究チームはこの結果を受けて、メス犬は人の能力の優劣を正確に識別し、その能力の高さに応じて、社会的な評価・判断を下していると指摘します。
(たとえばこの実験の場合、メス犬は”有能な人”が「ドッグフードの入った容器」を開けるとすぐに食べ物が手に入る可能性が高いから近づくと判断していると推測できる)
研究主任の千々岩 眸(ちぢいわ・ひとみ)氏は、次のように述べています。
「今回の結果は犬、特にメス犬が人間の能力を識別できることを示しており、加えて食べ物が関係する場合はその行動に影響を与えている可能性があります。
今後の研究では、人を評価する方法における犬の潜在的な性差をより詳しく調査する必要があるでしょう」
犬の性差については、これまでにもメス犬の方がオス犬よりも人間との関わりが深いことなどが指摘されています。
研究チームは次のステップとして、犬による能力の評価が他の運動タスク(フタを開ける以外のタスク)にも一般化できるかを調べていくとのことです。