感染個体はリーダーになる確率が46倍以上に!
トキソプラズマは、単細胞の寄生原虫の一種で、ネコ科の動物を最終的な宿主とします。
その間の中間宿主として、ヒトやブタ、ネズミ、ニワトリなど、200種以上の恒温動物に感染できます。
トキソプラズマに感染しても、たいていの場合は免疫系によって抑え込まれるため、目に見えて体調が悪化するような症状はほぼ見られません。
しかし、宿主の行動が大胆になったり攻撃的になるケースがよく指摘されています。
先行研究では、感染したラットやハイエナで、テストステロン(男性ホルモン)の分泌量が増加し、大胆な行動が増えたことが確認されています。
人間への感染にかんする研究では、感染した人を魅力的でモテやすくする、起業志向を強めるなど、外見や意識の変化が報告されています。
そこで研究チームは、トキソプラズマの感染が野生オオカミにどんな影響を与えるかを理解すべく、長期調査を続けてきました。
1995年から2020年にかけて、イエローストーン国立公園に生息するオオカミ200頭以上を対象に、各コロニー(群れ)の移動空間や行動を記録。
同時に血液サンプルを採取して、トキソプラズマへの感染の有無を調べました。
その結果、トキソプラズマに感染した若いオオカミは、非感染個体に比べて、より早く群れを離れることが分かったのです。
たとえば、普通のオスはだいたい生後21カ月ほどで群れを離れますが、トキソプラズマに感染したオスは生後6カ月で群れを去る確率が50%に達していたのです。
また、感染したメスでは通常48カ月のところ、30カ月で群れを去る可能性が高くなっていました。
こちらは公園内で撮影されたオオカミの映像。
オオカミは性的に成熟すると、仲間との競争や餌の奪い合いを避けるため、群れを離れて新たなコロニーを形成します。
独立のタイミングが早くなっているとは、つまり、感染によってオオカミの行動が大胆になっていることを意味しているでしょう。
それを支持するように、感染したオスは、感染していないオスに比べて、群れのリーダーになる確率が46倍以上も高くなっていたのです。
これは行動の大胆さがリーダーとしての適性につながった可能性を示唆します。
周囲のオオカミも「頼りがいがあるから、アイツについて行こう」と考えたはずです。
しかし、その”頼りがい”はトキソプラズマによって作られたものかもしれないのです。
それでは、トキソプラズマへの感染源はどこにあったのでしょうか?