トキソプラズマはヒト間で「性感染」するのか?
トキソプラズマは、単細胞の微小な寄生原虫で、ネコ科の動物を最終的な宿主とします。
その間の中間宿主として、ヒトやブタ、ヤギ、ネズミ、ニワトリなど、200種以上の恒温動物に感染します。
すでに世界人口の約3分の1がトキソプラズマに感染していると指摘されるほど、メジャーな寄生生物です。
しかし、トキソプラズマに感染しても約8割の成人は無症状で、とくに体調に異常もありません。
残りの2割で発熱や筋肉痛、疲労感があらわれますが、数週間ほどで回復し、慢性状態へと移行します。
ヒトへの主な感染経路は、加熱不十分の食肉や、ネコあるいは他の中間宿主の糞便に含まれるトキソプラズマを何らかの経路で摂取した場合です。
感染者の母親から胎盤を介して、胎児に感染するケースもあります。
そして、これまでの研究では、この母子感染を除くと、「ヒトからヒトへは基本的に感染しない」と主張されてきました。
ところが、 プラハ・カレル大学(Charles University・チェコ)は2014年の研究で、「男女間の性交渉がトキソプラズマの感性経路になりうる」ことを報告しています。
また同大は2020年、いくつかの動物種でオスからメスへのトキソプラズマの性感染が確認されたことを発表。
これを受けて、ヒト間でもトキソプラズマが性感染する可能性は十分にあると指摘しました。
さらに、トキソプラズマが宿主の性交渉に、勢力拡大の活路を見出していることを示すデータがあります。
トゥルク大学の生物学者で、本研究主任のハビエル・ボラズ=レオン(Javier Borráz-León)氏によると、ある研究で「トキソプラズマに感染したオスのラットは非感染のメスに対し、より強い性的魅力を持ち、パートナーに選ばれやすい」ことが判明したのです。
レオン氏は「これと同じ現象がヒトでも見られるかもしれない」と考え、調査を開始しました。