感染者は「見た目」の魅力度が高く、性的パートナーも多かった
チームは今回、トキソプラズマの感染者35人(男性22人・女性13人)と、非感染者178人(男性86人・女性92人)を対象に調査しました。
参加者は全員(感染者を含めて)健康な大学生で、以前にトキソプラズマ感染を調べる別研究で血液検査を受けています。
そして今回、参加者の健康状態や身体測定、外見の評価などを行った結果、驚くべきことに、トキソプラズマ感染者は非感染者に比べて、顔の「左右対称性のゆらぎ(Fluctuating Asymmetry: FA)」が有意に低いことが判明したのです。
FAは、身体の左右対称性のずれを測る指標であり、FAが低い(つまり、対称性が高い)と、身体の健康状態や外見的な魅力の高さに関連することがわかっています。
また、女性の感染者は、非感染の女性に比べて、BMI(ボディマス指数)が低く、自分の魅力度を高く評価し、性的パートナーの数も多いことがわかったのです。
さらに、205人のボランティアに協力をあおぎ、参加者の顔写真を評価してもらったところ、感染者の顔は非感染者よりも有意に魅力的で健康的に見えると評価されました。
こちらは、参加者の顔写真を合成して平均値をとったもので、(a)が感染者、(b)が非感染者です。
※ それぞれ10名ずつの顔写真を合成している。
これを見ると、男女ともに感染者の方が顔が小さくスッキリしている印象を受けます。
この結果についてチームは、トキソプラズマ感染が、宿主の代謝率や、ホルモンレベルのような内分泌系を変化させることで、見た目を魅力的にしている可能性がある、と指摘しています。
そしてトキソプラズマ自体は、宿主が魅力的になり、他のヒトをより多く惹きつけることで、感染経路を拡大できるというわけです。
タマゴが先か、ニワトリが先か
とはいえ現時点では、この研究はサンプル数が少なく結果はすべて推測の域を出ないため、他の解釈も成り立つことをチームは認めています。
たとえば、「タマゴが先かニワトリが先か」みたいな話で、そもそも見た目が魅力的で、性的パートナーが多いから、その分トキソプラズマにも感染しやすい、とも解釈可能です。
また別研究では、トキソプラズマに感染した男性は、非感染者にくらべ、男性ホルモンのテストステロン値が高いことを示唆するデータがあります。
しかしこれも、トキソプラズマが男性ホルモンの分泌を活発にしたというより、もともと男性ホルモンが多いから、寄生生物の感染率を高めるようなリスク行動を取りやすかったのだ、と捉えられるのです。
それから大前提として、トキソプラズマがヒト間で性感染するかどうかも、まだ完全には確かめられていません。
こうした疑問点を解決するためにも、チームは今後、より多くの被験者を対象にした研究を行う予定です。
いずれにせよ、寄生虫の感染によって見た目や性格が変化するという報告は、非常に多岐にわたり存在しています。
人間においては寄生虫の感染が統合失調症に影響するという有意な調査報告があり、その他の生物でも終宿主へ移行するために、寄生虫が寄生したカタツムリをわざと鳥に食べられるように操るという事例もよく知られています。
トキソプラズマも、終宿主のネコへ移行しやすくするためにネズミが感染した場合、ネコへの恐怖心が薄れるという報告もされています。
寄生虫が人間の見た目や行動を変化させることは十分あり得ることなのです。
そう考えると恐ろしい話に聞こえますが、研究者らは「この不可解な寄生生物は、必ずしも私たちの敵ではないのではないか」と考えているようです。
なぜならトキソプラズマは大きな健康被害を必ずしも伴うものではなく、さらに宿主の魅力をあげてくれる作用があるとなると、両者の間には「ウィンウィンの関係」が築かれているのかもしれないからです。
研究者は、もし今回の結果が事実なら、ここには良い共生関係が成立するかもしれないと述べています。