アルミニウム20は予想外の自己破壊原子だった
アルミニウム20は予想外の自己破壊原子だった / Credit:川勝康弘
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アルミニウム20は予想もできない自己破壊原子だった

2025.07.28 22:00:51 Monday

科学者たちがこれまで目にしたことのない超短命の原子核が発見されました。

その名は「アルミニウム20」です。

アルミニウム20は、文字通り生まれた瞬間にまず1個の陽子を放出し、その直後にさらに2個の陽子を同時に放出する連続崩壊を起こし、跡形もなく崩壊してしまうのです。

これほど不安定な原子核は壊れるために生まれてきたかのようで、まるで自爆装置のように自ら崩壊する様子は、核物理学者たちの度肝を抜きました。

しかもこのような「2段階にわたる陽子放出崩壊」他に例がない非常に特殊なものでアルミニウム20が史上初めての観測です。

いったいなぜアルミニウム20では、このような興味深い崩壊パターンや対称性の破れを生じさせてしまうのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年7月10日に『Physical Review Letters』にて発表されました。

Isospin Symmetry Breaking Disclosed in the Decay of Three-Proton Emitter 20Al https://doi.org/10.1103/hkmy-yfdk

アルミ缶のアルミとは全く違う『極端なアルミニウム』とは

アルミ缶のアルミとは全く違う『極端なアルミニウム』とは
アルミ缶のアルミとは全く違う『極端なアルミニウム』とは / Credit:川勝康弘

私たちが普段目にするアルミニウム(元素記号Al)は、実は原子番号13の元素です。

これはつまり、アルミニウムの原子核が必ず13個の陽子を含んでいるということを意味します。

アルミホイルやアルミ缶の材料として使われるアルミニウムは、質量数27のアルミニウム27という種類(同位体)です。

質量数27というのは、陽子と中性子の数を合わせて27個あるということを表しています。

具体的には、13個の陽子に加えて14個の中性子を含んでいます。

ところが、同じ元素でも中性子の数が異なると、原子核の性質がまったく変わってしまうことがあります。

原子核の世界はとても繊細で、粒子の数がほんのわずか違うだけで安定性に大きな影響が生じるのです。

例えば、この研究の主役であるアルミニウム20は、同じアルミニウムの仲間ですが、中性子はわずか7個しかありません。

陽子が13個に対して中性子が7個という極端なバランスのために、このアルミニウム20という原子核は非常に不安定です。

なぜアルミニウム20は「自己破壊原子」なのか?

私たちが「自己破壊」という言葉を聞くと、映画やアニメに登場する「自爆装置」を思い浮かべるかもしれませんが、実は最近発見された「アルミニウム20」という原子核がまさにそれに近い性質を持っています。原子核は普通、陽子と中性子という粒子が一定のバランスを保って安定しています。身近なアルミホイルやアルミ缶の原料であるアルミニウム27もそのひとつで、陽子13個と中性子14個というちょうど良いバランスを保っているため、壊れずに安定して存在できるのです。ところがアルミニウム20という原子核は、この「安定できるバランス」から極端に外れています。具体的には、陽子13個に対して中性子が7個しかないため、核の中でバランスを取るのが非常に難しい状況に置かれているのです。陽子同士はプラスの電気を帯びているため互いに強く反発します。中性子が十分にあればこの反発を弱めて安定させることができますが、中性子が少ないアルミニウム20ではその抑え込みが効きません。その結果、この原子核はまるで「自分自身の反発力に耐え切れなくなり」、生まれた瞬間に崩壊を始めてしまいます。ある意味でアルミニウム20は出現そのものが崩壊とイコールで結ばれたような存在であり、自己破壊原子とも言える存在なのです。(※後述するように生まれてすぐに3陽子連鎖崩壊(1陽子→2陽子)を起こし、核としての形を瞬時に失う点も自己破壊的と言えるでしょう)

私たちの身の回りに安定して存在している原子核は、実は原子核の世界全体から見ればほんの一握りです。

原子核には「安定の谷」と呼ばれる領域があり、これは陽子と中性子の数がちょうどバランスよく整った原子核だけが集まったエリアです。

現在までに発見された約3,300種類以上の核種(原子核の種類)の中で、安定して自然界に存在できるのはわずか300種類にも満たないのです。

それ以外の大多数の原子核は、時間が経つにつれて崩壊して、別の元素に姿を変えてしまいます。

これを「放射性崩壊」と呼んでいます。

放射性崩壊には、いくつかのよく知られたパターンがあります。

たとえば、原子核からヘリウムの原子核(α粒子)が飛び出す「アルファ崩壊(α崩壊)」、中性子が陽子に変わり電子を放つ「ベータ崩壊(β⁻崩壊)」、陽子が中性子に変わって陽電子を放つ「陽電子放出(β⁺崩壊)」、原子核が電子を取り込んで崩壊する「電子捕獲」、高いエネルギーを光として放つ「ガンマ崩壊(γ崩壊)」、そして重い原子核が複数の小さな核に分裂する「核分裂」などです。

これらの基本的な崩壊モードは、20世紀半ばまでに次々と発見され、原子核物理の基礎を築いてきました。

しかし最近の研究技術の進歩によって、こうした典型的な崩壊とは異なる「珍しい崩壊モード」が次々と見つかっています。

特に、陽子の数が中性子より極端に多い、いわゆる「陽子過剰核」と呼ばれる原子核において、従来の予想を超える崩壊現象が報告されているのです。

そのひとつが、陽子が単独で飛び出す「1陽子放出(1p放射)」という現象で、1970年代に初めて発見されました。

さらに21世紀に入ると、2個の陽子を同時に放出する「2陽子放出(2p放射)」という現象も確認されました。

そして近年では、さらに複数の陽子を同時または連続的に放出するような、極めて珍しい崩壊も観測されるようになりました。

こうした異例な現象は、陽子が原子核内にとどまるために必要な核力(陽子や中性子を結びつける力)の限界や性質を調べるうえで重要な手がかりを与えてくれます。

言い換えると、こうした研究は、原子核という積み木をどこまで崩さずに積み上げられるのか、限界を試す試みでもあります。

こうした背景から、世界中の核物理学者たちは、安定領域から遠く離れた「極端に陽子過剰な原子核」を探し、調べることを目指しています。

そこで重要な目安となるのが「陽子ドリップライン」という境界線です。

陽子ドリップラインとは、陽子の数が多すぎて、もはや核力が陽子を核内に束縛しきれなくなり、陽子がまるで水滴のようにポタポタと核外へ滴り落ちてしまう限界点のことです。

この境界を超えると、核内の陽子は安定して存在できなくなり、次々と外に飛び出してしまいます。

今回研究対象となったアルミニウム20は、まさにこの陽子ドリップラインを超えた位置に存在する原子核であり、理論上はすぐに陽子を放出して崩壊することが予測されていました。

しかし、実際にどのような崩壊を示すかは不明であり、またその崩壊が既存の理論的予測にどれだけ一致するかを調べることが、この研究の主な目的となったのです。

では、アルミニウム20は具体的にどのような形で崩壊を起こすのでしょうか?

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