アイスクリームの食感を左右する「オズワルト熟成」
アイスクリームは、数ある食べ物の中でも「凍ったまま食べる」という珍しい特性を持っています。
アイスクリームのおいしさには、甘味、後味など通常の食品に加えて、冷たさや氷の結晶による食感など、さまざまな要因が関係しています。
そのためアイスクリームの製造過程には、他の食品の製造とは一線を画す「材料物理学」の仕組みが存在します。
特に、滑らかな食感はアイスクリーム中の氷結晶の量、サイズ、形状によって大きな影響を受けます。
アイスクリームの製造過程で、氷結晶の形成とその後の変化に影響を与える要因としては「オズワルト熟成」という現象が知られています。
オズワルト熟成を簡単に言えば、小さな氷結晶が溶解し、大きな氷結晶に吸収される現象です。
そのためアイスクリームは時間の経過とともに氷結晶のサイズが大きくなり、食感が変化します。
つまりアイスがジャリジャリするようになるわけです。
このプロセスは、大きな粒子の方が小さな粒子よりもエネルギー的に有利であるために発生します。
これは、粒子の表面にある分子が内部にある分子よりもエネルギー的に不安定であるという理由です。
といっても難しい話ではありません。
例えば、上の図のように、内部の原子は常に周りの原子と結びついているため、とても安定しています。
しかし、表面にある原子は内部の原子としか結びついていないため、安定性が低くなります。
この不安定性は小さな粒子ほど大きな影響をとなります。
小さな粒子は大きな粒子に比べて相対的に大きな表面エネルギーを持っており、表面エネルギーが高いほど粒子は不安定だからです。
そのためアイスクリームが輸送と保管を繰り返す中で温度変化が起きると、エネルギー的に不利な小さな粒子は少なくなり、代わりに大きな粒子が増えていきます。
上の動画では小さな粒子が消滅して、大きな粒子が育っていく様子を示しています。
アイスクリームの製造において、粒子の荒さは触感に重大な影響を与えます。
例えば、近年の研究によると「アイスクリーム中の氷結晶の径が30μm以下だと非常に滑らかな食感となり、35~55μmだと滑らかな食感、55μm以上だとザラザラとした粗い食感になる」と報告されています。
製造後にアイスクリームを適切に保存しないと、オズワルト熟成の影響で氷結晶が成長し、食感が悪化する可能性があるのです。
アイスクリーム作りはオズワルト熟成という物理現象をいかにうまくコントロールできるかにかかっているとも言えます。
そのためアイスクリームのレシピには材料に加えて温度変化の速度にかんする情報も含まなければなりません。
しかし新たな研究では、宇宙でレシピ通りにアイスクリームを作っても、地球と同じ食感にならない可能性が示されています。