宇宙アイスは食感が違う
なぜ宇宙で作ったアイスは地球産と食感が違うのか?
結論から言えば、主な原因は重力のあるなしとなります。
地球にあるアイスクリームの融けた部分を顕微鏡で拡大してみると、重力の影響を受けて比重の軽い成分は上側に、比重の重い成分は下側に移動していることがわかります。
しかし宇宙の無重力環境ではこのような比重による成分の分離が起こりにくくなります。
そのため地球と宇宙ではアイスクリームの成分分布に微妙な違いが生まれます。
特に融解と凍結が繰り返されやすい表面付近では、成分分布の微妙な違いが、オズワルト熟成の違い、つまり氷結晶の成長具合の違いとして現れると考えられます。
といってもそれを確認するために、国際宇宙ステーションにアイスクリーム製造機を持ち込んで、オズワルト熟成の違いを調べるのは非常にコストがかかります。
そこで新たな研究では無重力でのオズワルト熟成を再現するにあたり、レーザーを使いました。
実験ではまず水・油・界面活性剤・共界面活性剤という異なる4つの成分を含む混合液が用意されました。
アイスクリームの成分とは違いますが、オズワルト熟成の過程を調べるにはクリームや牛乳を使うよりもこの4種類のほうが適しています。
というのも、クリームや牛乳は不透明であり、内部で氷の結晶が成長する過程を観察するのが難しいからです。
この4種類の成分は重力がある状態では密度によって「油のほうが水より上」というように層状に分布します。
次に研究者たちはこの混合液に対してレーザーを照射し、光放射圧を加えて混合液を攪拌しました。
光放射圧とは光が物体に衝突することで発生する圧力です。
光には質量はありませんが運動量は持っているため、レーザーなどの強い光が物体に当たると微小な力を加えることができます。
この力は小さいものの、集中したレーザー光では無視できない効果を持ちます。
そのため宇宙開発などでは地球からレーザーを発することで光学帆船を加速させるプロジェクトも検討されています。
実験ではこの仕組みを利用し、混合液をレーザーで攪拌することで比重による層が破壊され、無重力と同じ状況が作られました。
そしてこの状態でオズワルト熟成がどう進行するかが調べられました。
すると、レーザーを当てて無重力環境を真似た場合、オズワルト熟成の進行が違った様子を見せることが判明しました。
この結果から無重力環境では、氷結晶の成長に重大な影響を与えるオズワルト熟成が、地球上と異なる進行を示すことがわかりました。
つまり宇宙で作った「宇宙アイス」と地球で作った「地球アイス」は同じレシピでも、舌触りが微妙に異なる可能性があるということです。
具体的には、宇宙アイスのほうが成分が常に混ざり合うため結晶の成長が均一になりやすく結晶の大きさが均等に分布することになります。
これまで物体の凍結などの現象は重力のある地球環境での研究が主であり、無重力環境で反応がどのように進むかはあまり考えられていませんでした。
オズワルト熟成はアイスクリームだけでなく合金内部での金属結晶の成長にもみられる現象です。
そのため地球で作った合金と宇宙で作った合金にも微妙な違いが生まれると考えられます。
もしかしたら未来の宇宙時代では、宇宙でしかつくれない合金が戦略的に重要な価値を生むようになるかもしれませんね。