なぜ“顔じゃない顔”に引き寄せられるのか

この「存在しないはずの顔が見える」不思議な現象は、科学的には顔パレイドリアと呼ばれています。誰もが一度は経験したことがあるでしょう。
たとえば壁のシミが人の顔に見えたり、雲の形が動物や人の表情に見えたりすることがあります。
人間の脳は進化の過程で、少ない情報からでもすばやく顔を見つけられるように発達してきました。
これは、危険や社会的な合図を見逃さないための安全策でもあり、見間違いであっても「顔っぽいもの」を認識することがあるのです。
過去の研究では、この現象がただの錯覚以上の働きを持っていることが示されてきました。
顔に似た形のものは、本物の顔を見たときと同じように、人の注意を引きつけたり、見る方向を決めるきっかけになったりすることがあります。
そしてそれは、視線や表情といった社会的な手がかりとして脳が処理している場合もあります。
ただし、顔パレイドリアがどのように注意を引きつけているのか、またその仕組みが本物の顔による「視線の効果」とどれくらい似ているのか、これまでの研究では十分に比べられていませんでした。
視線の効果(視線キュー効果)とは、人がある方向に視線を向けたとき、それを見た人の注意も同じ方向に自然と移る現象です。
この反応は、社会の中で円滑にコミュニケーションをとるための基本的なしくみで、周囲の変化にすばやく気づくためにとても重要と考えられています。
これまでの研究では、本物の顔と顔に見える物体は別々に調べられることが多く、同じ条件で両者を直接くらべた例は多くありませんでした。
そこで、中国科学院とイギリスのサリー大学の研究チーム(Chenら)は、同じ実験の形式の中で「本物の人の横目」と「顔に見える物体」の両方が、どのように人の注意を動かすのかをくらべて調べました。
さらに研究では、顔を普通の向きに見せた場合、目だけを切り出した場合、顔全体を上下逆さまにした場合という3つのパターンを使って、目などの部分的な手がかりと、顔全体の形(グローバル情報)が注意を動かす力にどう関わっているのかを詳しく調べました。
こうした工夫により、本物の顔と顔パレイドリアの共通点や違いがはっきりし、「顔に見えるもの」が脳の中でどう処理されているのかに新しいヒントが得られたのです。
本物の顔と顔に似た物体で脳は本当に同じ処理をしていたのでしょうか?