「扇風機」は本当に体温を下げてくれるのか?
毎年夏になると、熱中症による救急搬送や死亡のニュースが後を絶ちません。
特に高齢者は体温調節機能が低下しているため、若年者に比べて熱の影響を受けやすいとされています。
こうしたトラブルを防ぐのは冷房設備です。
そして冷房設備がない家庭や施設では、扇風機が頼みの綱となることもあります。
室内で風を受けることで体感温度を下げられると信じられており、「風があれば涼しい」という直感的な印象があるため、多くの人が積極的に使用しています。
しかし米国CDC(疾病予防管理センター)は、気温が32℃を超える環境では扇風機の使用が体温上昇を招くとして、風を自分に向けないよう注意を促しています。

その一方で、扇風機の効果に関する科学的根拠は限定的で、実際にどういった条件で安全なのかははっきりしていませんでした。
そこで今回の研究チームは、高齢者における扇風機の効果とリスクを、気温や湿度の条件を変えながら詳細に調査しました。
研究には、60歳以上の58人(平均年齢68歳)が参加しました。
このうち27人は冠動脈疾患(CAD)を抱えており、31人は健康な高齢者でした。
実験は、以下の2つの環境条件で行われました。
- 条件1:気温38℃、湿度60%(高温多湿)
- 条件2:気温45℃、湿度15%(高温乾燥)
参加者はそれぞれ、以下の4つの介入を受けました(高温乾燥条件では心疾患を持つ参加者の安全のため一部介入が省略)。
- 何もしない(コントロール)
- 扇風機のみ(風速約4m/s、距離約1m)
- 皮膚を湿らせるのみ(ぬるま湯をミストで散布)
- 扇風機+皮膚の湿らせ
すべての介入は3時間にわたって行われ、各セッションの間には72時間以上の休息を挟みました。
評価項目には、体温(肛門センサー)、発汗量(体重の変化)、温感(7段階評価)、快適度(4段階評価)が含まれました。