「曖昧な友人」が健康に与える意外な影響

毎日の生活の中で、人と人との繋がりに疲れたり、ストレスを感じたりすることはありませんか?
心を許せる友人とのおしゃべりや家族との食事は、心を穏やかにし気持ちを安定させる一方で、苦手な相手との交流は気持ちを沈ませ、場合によっては翌日まで気分を引きずることさえあるでしょう。
このように、人間関係はまさに「両刃の剣」と言えます。
人との繋がりが大切だとはよく言われますが、すべての人間関係が私たちの健康に良い影響を与えるとは限りません。
これまでの研究では、家族や友人など身近な人々との交流が、私たちの身体と心の健康を保つことを明らかにしてきました。
社会的な繋がりは、孤独感を和らげたり、精神的ストレスを軽減したりすることで、心臓病や免疫機能の低下などを防ぐ効果があると言われています。
しかし、これらの研究はポジティブな関係、つまり「支えになる人々」の良い面ばかりに焦点を当てており、対人関係の負の側面は十分に検討されてきませんでした。
実際には、人間関係の中には明らかにネガティブな影響を与える関係もあります。
頻繁に批判してくる相手や、何かと問題を起こす相手と接することで慢性的なストレスが蓄積されると、それが身体の中に「目に見えない負荷」をかけてしまいます。
この負荷は専門的には「アロスタティック負荷」と呼ばれ、日々の小さなストレスが積み重なり、細胞レベルで徐々に体を老化させていくものです。
例えば、夫婦の不和や孤独感が続くと、細胞の寿命を司るテロメアというDNAの一部分が短くなったり、遺伝子の働きを調節する仕組み(エピジェネティクス)が変化したりすることも知られています。
こうした変化は、心臓病や糖尿病、免疫力の低下など、実際の病気のリスクを高めることが分かっています。
それにもかかわらず、これまで私たちが日常的に経験する「ネガティブな人間関係」による影響は見過ごされてきました。
身近にいる人から受けるストレスが、長期的に健康にどれほど悪影響を与えるかを詳しく調べた研究はまだ少ないのです。
最近の研究では、私たちの周りに存在するこうした「困った人々」が実は想像以上に多く、日常の慢性的なストレスの主な原因になっている可能性が指摘されています。
「ハスラー(hassler)」と呼ばれるこうした相手は、職場のストレスや経済的な不安のように慢性的なストレスを生じさせ、体内の炎症反応を強めたり、心臓病などのリスクを増加させたりすることが示されています。
さらに興味深いことに、単純にネガティブなだけの関係だけではなく、「良い面と悪い面が混在する複雑な関係」の方が、健康に与える悪影響が大きいことが明らかになっています。
この複雑な関係は専門的には「アンビバレントな関係」と呼ばれていますが、一般的にはフレンド(友人)とエネミー(敵)を組み合わせた「フレネミー(frenemy)」という言葉で知られています。
フレネミーとは、普段は友人として支え合ったり協力したりすることもある一方で、批判や嫉妬、対抗心など、ネガティブな感情やストレスも抱えてしまうような相手のことです。
例えば、親しいはずの友人が時折あなたの欠点を指摘してきたり、同僚と仕事を協力しながらも密かに競い合っていたりするような状況がこれにあたります。
また、家族や昔からの友人など、簡単に関係を断つことが難しい間柄ほど、こうした複雑な関係が生じやすいと言われています。
これまでは、「明らかに敵対的な関係」、例えば明確ないじめや嫌がらせを受ける場合については詳しく研究されていましたが、支えになることもある複雑な関係が私たちの健康や老化に与える影響については十分に知られていませんでした。
ポジティブな関係が健康を守り、完全にネガティブな関係が健康を害するという単純な理解では説明できないこの問題に対して、今回の研究者たちは、「複雑で曖昧な関係性が老化や健康に与える影響」を明らかにしようと考えました。
果たして、このフレネミーと呼ばれる「味方でもあり敵でもある」複雑な相手が、私たちの体に与える影響はどの程度のものなのでしょうか?