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biology

チンパンジーですら証拠をもとに信念を「考え直せる」柔軟さを持つと判明

2025.10.31 18:30:00 Friday

人間の中にはどんなに合理的な証拠を並べても、信念を変えない人がいます。

しかしオランダのユトレヒト大学(UU)とアメリカのカリフォルニア大学バークレー校(UC Berkeley)などの共同研究により、チンパンジーですら強い証拠を示されれば初期の選択(初期信念)を覆し、自らの選択を合理的に変えることができることが示されました。

研究ではチンパンジーに対していくつかの証拠が提示されましたが、チンパンジーは証拠の強弱に応じて選択を更新しました。

さらにこれまでアテにしていた証拠が弱められたとき、頼るべき証拠を素早く切り替える能力も示されました。

これは自らの脳内で浮かんだ考えを比較してどちらが正しいかを判断する高度な客観的な認知がチンパンジーにも存在することを示唆します。

このような新たな証拠で信念を変更する能力は、進化のどの段階で出現したのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年10月30日に『Science』にて発表されました。

New psychology study suggests chimpanzees might be rational thinkers https://www.eurekalert.org/news-releases/1103479
Chimpanzees rationally revise their beliefs https://doi.org/10.1126/science.adq5229

自分の中の思考を客観的に比較する能力は人間だけのものか?

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証拠に基づいて信念を改める柔軟さは、従来「人間的な理性の証」と考えられてきました。

例えば怪しげな物音を聞いて幽霊かと疑っても、新たに人影が見えれば「ただの人間だった」と考え直す──こうした信念の更新は高度な知的能力の現れだというわけです。

人間以外の動物は、目先の刺激に反応したり学習結果を活かすことはできても、証拠の強弱を比較検討して信念を更新することは十分に検証されてきませんでした。

たとえばこれまでの研究でも、チンパンジーを含む大型類人猿が単独の手がかりから推論する知恵(足跡や物音からエサの場所を当てる等)は知られていました。

チンパンジーは、箱の周りに残ったエサの痕跡(残りカス)から中身の在処を推理したり、見かけに惑わされず現実を見抜いたり、矛盾する情報に直面すれば自分で追加の手がかりを探しに行くことも知られています。

チンパンジーたちの観察、推測、学習の能力はしばしば私たちを驚かせるレベルに達します。

しかし、証拠の強さを“天秤にかけて”比較し、必要に応じて自分の思い込み(信念)を修正するというような高度な能力がチンパンジーに備わっているかどうかは、これまで明らかになっていませんでした。

証拠を比較し信念を修正するには、自分自身の脳内で行われる思考を、まるで外部から見比べるように客観視する「メタ認知」という高レベルな機能の関与が示唆されます。

そこで今回研究者たちは、ウガンダの島にあるチンパンジー保護区で一連の実験を行い、チンパンジーにもこの力があるのか調べることにしました。

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