未発見だった「勃起を助けてくれる」細胞
勃起の仕組みについて、多くの人々は学校の保険体育で学ぶでしょう。
実際、保健体育の教科書のほとんどに「勃起は海綿体に血液が流れ込むことで起こる」と書いてあるはずです。
海綿体とは血管に覆われたスポンジ状の柔らかな組織です。
しかし血流を調節する筋肉(平滑筋)が緩むと海綿体に血液が流れ込んで圧力が増加し、全体が硬くなり勃起と呼ばれる現象が起こります。
台所で例えるならば、筋肉は蛇口を調節するハンドル、流れ込む血液は水、海綿体はスポンジと言えるでしょう。
ただ台所にある普通のスポンジは水を含んでもすぐに流れ出てしまいますが、海綿体は一度入り込んだ血液を保持する仕組みがあるため、外部からの圧力が加わっても硬さを維持できるのです。
実際、多くの専門家たちも勃起は「筋肉・血液・海綿体」という3要素を軸に説明できると考えていました。
しかし人間やマウスなどの哺乳類のペニスをよく調べると、陰茎に最も多く存在するのは線維芽細胞と呼ばれる細胞であることがわかります。
線維芽細胞はコラーゲンやヒアルロン酸などを分泌して、組織と組織の「つなぎ(結合組織)」を構成する細胞です。
私たちの体は皮膚・筋肉・神経・骨などさまざまな部品から作られていますが、1つの生命としてまとめるためには、それらを繋ぎ合わせて支える部分が必要となります。
そのため組織の「つなぎ」の中核となる線維芽細胞は、私たちの身体にとってなくてはならない存在と言えるでしょう。
ペニスも血管や神経など複数の部品から構成されており、つなぎの役割をする線維芽細胞が存在すること自体は、それほど不思議ではありません。
ただ本来の「つなぎ」という役割から、ペニスに存在する線維芽細胞には特殊な役割は存在せず、勃起機能を制御するような複雑な役割があるとは考えられていませんでした。
しかし近年の研究により、線維芽細胞には「つなぎ」以上の役割があり、組織を制御する役割が発見されるようになってきました。
つまり、これまで部品を繋ぐ充填剤だと思っていた部分が、実は部品の動きを左右する制御盤である可能性がみえてきたのです。
そこで今回カロリンスカ研究所の研究者たちは「ペニスにある線維芽細胞にも、もしかしたら隠された機能があるのでは?」と考え調査を行うことにしました。
調査対象となったのは、人間と同じ哺乳類に属するオスマウスたちです。
マウスたちのペニスにも人間と同じ勃起機能が備わっており、勃起メカニズムもほとんど同じだからです。
研究ではまず、オスマウスたちのペニスにある線維芽細胞の遺伝子が組み替えられ、青色光によって活性化するように操作されました。
そしてオスたちのペニスが青色光で照らされます。
するとペニスの線維芽細胞の活性化が平滑筋を弛緩させ、海綿体へ向かう血流を増加させることを発見しました。
つまり線維芽細胞には蛇口の役割をする筋肉をリラックスさせて海綿体に向かう血流を増やし、勃起を助ける役割をしていたのです。
また興味深いことに、ペニスにある線維芽細胞はマウスによって差があり、多ければ多いほど筋肉がリラックスしやすくなって、血流の増加も起きやすいことが示されました。
ではペニスにある線維芽細胞は努力によって増やせるのでしょうか?