「世界一の黒さ」の秘密とは?
「至高の暗黒シート」が世界一黒くなる理由の1つは、微細な凹凸構造にあります。
素材表面が、数十μmの円錐が集まった構造をしており、これが「光閉じ込め構造」として働きます。
入射光が円錐のエッジに当たると壁面で何度も吸収・反射を繰り返し、素材としての反射率がゼロに近づいていくのです。
反射率を小さくするためのポイントは、円錐のエッジをより小さく、壁面をより滑らかにすることです。
従来の加工技術では困難でしたが、研究チームは、高エネルギーのイオンビーム照射による加工によって、これを解決しています。
ここまでは、2019年に開発された「究極の暗黒シート」と基本的に同じです。
しかし2023年に開発された「至高の暗黒シート」では、黒さに関わるもう1つの要素に改善を加えています。
それは、シートを構成する素材の種類です。
従来の究極の暗黒シートでは、シリコーンゴムに「カーボンブラック顔料(炭素の微粒子を用いた顔料)」を混ぜ込んだ素材を使っていました。
ところが、このカーボンブラック顔料が可視光の反射率低減を制限すると判明。
カーボンブラック粒子が可視光と同じサイズかそれ以上の凝集体を作るため、光の散乱が生じやすくなっていたのです。
そこで「至高の暗黒シート」では、代わりに「カシューオイル黒色樹脂」を採用しました。
これは、カシューナッツの殻から抽出したポリフェノール類を用いた素材であり、「散乱反射が極めて少ない」という特徴をもちます。
こうして完成した新しい素材には、さわっても崩れない耐久性と圧倒的な黒さが備わりました。
この「至高の暗黒シート」を利用するなら、さまざまな分野の光制御・利用技術の性能が格段に向上するでしょう。
現在研究チームは、至高の暗黒シートの実用化に向けた検討を進めています。