ストックホルム症候群の起源となった事件
衝撃の6日間
その日、スウェーデン信用銀行に勤めるクリスティンが、いつも通り働いていると、銃を持ったヤン=エリック・オルソンが現れました。彼はラジオでロックミュージックを流しながら、クリスティンを含む4人の銀行員を人質に取ったのです。
彼の要求は高額な身代金だけでなく、刑務所に収監されていた仲間、クラーク・オロフソンの解放も含まれていました。
意外なことにスウェーデン政府はこの要求に応じ、クラークを銀行に送り込みました。
このクラークはその後、人質たちに対して友好的な態度で接してくれたようで、クラークが彼女たちの安全を確保するため、ヤン=エリックを説得するなどの行動をとったと言います。
そのためクラークの到着は銀行内の緊張を緩和させることとなり、特にクリスティンにとって、彼は安心感をもたらたようです。
この銀行襲撃事件は、最終的に6日間にも渡って続いたため、その緊張感の中で、緊張を緩和させる存在となった犯人の存在は、被害者たちが犯人グループに絆を感じる原因になった可能性はあるでしょう。
しかし、被害者たちの感情は一般的に理解されているものとは異なっていた可能性があるようです。
首相との対話
警察は最初の数日間に大失態を犯しました。
警察はヤン=エリックの正確な身元を特定できず、カイ・ハンソンという脱獄犯だと思い込み、カイ・ハンソンの弟を現場に送り込んでしまったのです。
そのためヤン=エリックはこの少年に向けて発砲、少年は危険を感じてすぐにその場から逃げ出しましたが、これにより人質たちは警察の能力を疑問視し始めました。
クリスティンは特に警察の対応に失望し、オロフ・パルメ首相に直接電話をかけました。
彼女は人質たちの命が危険にさらされていること、そして犯人たちの要求に応じることの重要性を懸命に訴えました。首相は理解を示しつつも、犯人たちを外に出すことのリスクを懸念していました。
その対応に疑問を感じたクリスティンは、通話の最後に 「助けてくれてありがとう」と皮肉を込めた言葉で首相に感謝の意を示したのです。
こうしたクリスティンの行動は、かなり犯人側に協力的で同情的と見られる原因になったでしょう。
催涙ガスの使用により事件は解決。しかし…
事件発生から6日が経過した頃、人質たちは警察が催涙ガスを投げ入れるための準備として、天井に穴を開けている音を耳にしました。
当然犯人たちもこのことに気づき、計画を実行すれば人質を殺害すると警察を脅し、人質たちも計画を変えるように警察に訴えました。
しかし結果的に警察は催涙ガスの使用を決行。被害者や犯人たちは床に倒れ嘔吐し、ヤン・エリックは逮捕され、他の人質たちは無事に救出されました。
この救出作戦はたまたま上手く行っただけであり、被害者にも大きな被害が出る可能性があったとクリスティンは考えたようです。
そのため彼女は後に警察のこの強引な救出方法に疑問を持ち、公然と批判する姿勢を行ったのです。
しかし、このとき彼女のとった警察への批判姿勢は、強盗犯に同情し擁護するために発せられたと理解され、後に「ストックホルム症候群」という名で世界中に知られることなるのです。