江戸時代から300年謎だった「発光トビムシ」の正体を解明!
江戸時代から300年謎だった「発光トビムシ」の正体を解明! / Credit: 名古屋大学 – 発光トビムシの正体を解明!(2023, PDF)
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江戸時代から300年謎だった「発光トビムシ」の正体を解明!

2023.08.25 Friday

トビムシは体長数ミリ程の小さな節足動物です。

名前に「ムシ」と付いていますが昆虫とは別系統で、昆虫よりも古くから地球に存在していました。

主な生息地は森林や公園、神社の土壌で、世界に約9000種、日本でも約400種が知られています。

そして今回、名古屋大学・横浜国立大学らの研究チームは、300年以上前の江戸時代から謎だった「発光するトビムシ」の正体を解明することに成功しました。

さらにトビムシの発光を安定して再現する方法を確立し、世界で初めてトビムシが発光する瞬間の動画撮影に成功したとのことです。

研究の詳細は、2023年8月7日付で科学雑誌『Zootaxa』に掲載されています。

発光トビムシの正体を解明!土に潜む、緑色に光る陸上最小の発光節足動物 ~独自に考案した方法で、発光トビムシを次々と発見~ https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2023/08/post-551.html
Contribution to the taxonomy of Lobellini (Collembola: Neanurinae) and investigations on luminous Collembola from Japan https://mapress.com/zt/article/view/zootaxa.5325.1.4

発光トビムシの正体を解明!動画の撮影にも初成功

長年「トビムシに発光種がいる」ことは世界的に指摘されていましたが、種が特定されていないのと、本当に光るのか科学的に確認されていないことから、その正体は謎に包まれていました。

そんな中、日本産の赤いトビムシは、発光する様子が世界で唯一写真に収められており、調査対象として大いに期待されています。

しかし、種を特定する手がかりとなるDNAバーコード」は得られているものの、トビムシ類は分類学的に混乱しており、種名の決定にはいたっていませんでした。

DNAバーコードとは、生物のもつ遺伝情報のうち、生物種の識別ができるほどの変異がある領域のことを指します。

名前を知りたい生物のDNA情報を読み取り、既知種のデータベースと照合することで、あたかもバーコードを読み取るかのように種名が同定できるのです。

ただし、学名が付いている種のDNAバーコードが事前に得られていることが前提となります。

そこで研究チームは、日本産の赤い発光トビムシの正体を解明すべく、DNAバーコードを手がかりに種の探索を行いました。

その結果、日本産の赤い発光トビムシとDNAバーコードが一致する種を見つけ出し、その形態的特徴から「ザウテルアカイボトビムシ」であることが突き止められたのです。

謎めいた発光トビムシは「ザウテルアカイボトビムシ」と判明
謎めいた発光トビムシは「ザウテルアカイボトビムシ」と判明 / Credit: 名古屋大学 – 発光トビムシの正体を解明!(2023, PDF)

さらにトビムシが発光する様子の動画撮影にも世界で初めて成功します。

これでザウテルアカイボトビムシが体表の粒々を通して緑色に光ることが科学的に実証されました。

ちなみにトビムシは、陸上で発光する節足動物としては世界最小です。

トビムシの発光の動画撮影に世界で初成功!
トビムシの発光の動画撮影に世界で初成功! / Credit: ATSUKO OHIRA et al., Zootaxa(2023)

それからチームは独自に編み出した方法を用い、東京〜沖縄で採取された12種のトビムシの発光能を改めてテストし、既知のトビムシから3種が発光能を持つことを新たに特定しました。

これで日本には計4種の発光トビムシが見つかったことになります。

トビムシは刺激を受けると光ることが分かっていましたが、再現可能な刺激の与え方は不明でした。

しかしチームは音響装置を使って同じ刺激を繰り返し与えられる方法を考案し、トビムシの発光を促すことに成功しています。

再現可能な方法でトビムシの発光能が評価されたのはこれが史上初です。

発光が確認されたのは、東京と神奈川で採取された「ザウテルアカイボトビムシ」、沖縄の山林にいる「ヤンバルイボトビムシ」、同じく沖縄で採取された「クニガミイボトビムシ」、日本だけでなく世界に広く分布する「アミメイボトビムシ」の4種です。

300年の時を経て正体解明か⁈

また発光トビムシに関する記述は古く、1709年の江戸時代に出版された「大和本草」に登場しています。

スケッチや文章から”発光するトビムシ”の記述と見られますが、もしかしたら、その正体は今回判明した発光トビムシのうちのどれかだったのかもしれません。

そうなると、実に300年以上の時を経て、江戸時代の発光トビムシの正体が解明されたことになります。

右:大和本草には「夜になると蛍火のように光る」との記述がある
右:大和本草には「夜になると蛍火のように光る」との記述がある / Credit: 名古屋大学 – 発光トビムシの正体を解明!(2023, PDF)

一方で、なぜトビムシが発光能を持っているのかは分かっていません。

チームは最も有力な仮説として「自身が不味いことを天敵に光で警告している」と推測しました。

というのもザウテルアカイボトビムシは、刺激を受けて光る他に、強く刺激すると防御物質を出すことが知られています。

「光るトビムシは不味い」と天敵が学習してくれれば、自ら光を放つことで捕食を避けられるかもしれません。

この推測が正しいかどうかは今後の検証が必要です。

とはいえ今回の研究は、トビムシを発光させる手法の確立、世界初となる動画の撮影、さらには発光能が複数のトビムシ種に見られることなどを世界に先駆けて解明した貴重な成果です。

同チームは発光トビムシを科学的に扱えるようにしたことで、発光生物学の新たな幕を切り開いたと言えるでしょう。

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