報酬の価値は時間経過とともに減る
「人生100年」という言葉があるように平均寿命が延びたことにより、退職してから約30年以上の時間を過ごさなければいけなくなりました。
その時に心配なのが退職後の「お金の問題」ではないでしょうか。
貯蓄する時には、遠い将来の状況を自分ごととして考え、備えなければなりません。
ところが私たちは貯蓄をすることが得意ではないことがわかっています。
例えば、すぐに1万円をもらうのと1年後に2万円をもらうのではどちらの方を選びますか。
おそらく多くの人はいますぐに1万円をもらう選択をするのではないでしょうか。
冷静に考えれば、1年待ち2倍の金額をもらえる選択をした方が合理的であるにも関わらず、私たちは現在の価値に重きを置くのです(1年後にリスクなしで利回りが100%の投資先など詐欺でもない限り存在しないから)。
この現象は「時間割引」や「時間選好」と呼ばれ、得られる報酬の嬉しさの度合いが時間の経過とともに下がる現象を意味します。
現在感じている欲望の優先順位を高く、将来起きるであろう出来事をまるで他人事のように感じてしまうのです。
そこで米ニューヨーク大学のハル氏ら研究チームは、VR上で自分の年老いた姿を見る経験が、将来の自分との結びつきを強め、貯蓄行動を促進するのではないかと考え、実験を行いました。
実験では、参加者55名を①VR上で現在の姿を反映したアバターになる人と、②自分の年老いた姿(70歳代)のアバターになる人の2つのグループに分けられました。
よりアバターに対する身体所有感(自分の体である感覚)を高めるために、VR上では鏡を見ながら声を出したり、頭を回す、頷くなど身体を1分程度動かしてもらいました。
VR上では、アバターの見た目だけでなく身体の動きもトラッキングし、アバターは本人の動きと同期するようになっています。
その後、参加者に急遽100万円を手にしたときに、そのお金を現在と退職後のどちらにどれくらいの割合で使うかを回答してもらっています。
さて将来の自分の姿に一時的になることでどれくらいの金額を将来の資金として分配するようになったのでしょうか。