イヌとヒトの認識が異なる理由

ここでまずイヌの視覚についておさらいしておきましょう。
イヌの視力は0.2~0.3程度で人間のようにはっきりとものを見ることができません。
また、目が頭の側面についていることから見える範囲が広く、特定のものを見るのが難しいと言われています。
イヌの見える範囲は目がついている場所によるため、頭の形が違えば目の見え方が変わります。
一般的に、頭が短い犬種ほど視力がよくなることから、頭蓋骨の幅と前後の長さの比率である「頭蓋指数」でイヌの視力を表すことができるのです。
今回の研究でも各イヌの「頭蓋指数」が測定されましたが、「頭蓋指数」と学習に必要な試行回数の関係を見ると、課題の難度によって視力の影響が異なることがわかりました。
簡単な課題であれば視力が「モノの特徴」に関する認識に寄与するものの、難しい課題になると影響しなくなっていたのです。
ここでいう難しい課題とは、途中で正解の皿を入れ替える「逆転学習」を指します。
なお、視力以外の影響を調べるため、各イヌに対して上記実験に加えて記憶力、注意力、忍耐力などもテストしました。
これらの能力は認知能力と呼ばれるもので、他の情報との比較や過去の経験との関連を踏まえて情報を処理する能力を指します。
認知能力の高いイヌは記憶力に優れており、指示にも瞬時に対応できるようないわゆる「賢い」イヌです。
今回の研究ではこのような「賢い」イヌが、場所と同じくらい簡単に情報を物体に結び付ける傾向にありました。
また「賢い」イヌたちは途中で正解の皿が途中で変わってしまう逆転学習に関しても少ない試行数で適応することができました。
つまり、イヌが空間的な条件に偏った認識をしてしまうのはイヌの視覚というよりは認知能力、すなわち「賢さ」が強く関係することが示されたのです。
人間の子にも見られる「空間条件」への偏り

今回の実験によって、モノを認識するとき、イヌは空間条件にこだわる傾向があるものの、賢いイヌは「空間条件」への偏りが小さいことがわかりました。
このような賢いイヌは正解が入れ替わるなど学習が難しい課題に際しても情報を整理し、さらなる学習につなげることができます。
このことから、モノの認識による空間条件への偏りは「認知能力が高くなること」で解消されると考えられます。
例えば、人間でも認知能力が低い乳幼児のうちは空間条件への偏りが生じている可能性があるのです。
実際、私も自分の子が赤ちゃんの頃を思い出してみると、いつもの場所におもちゃがないとき、視界に入る場所にそのおもちゃがあっても「見つからない」と泣くことがありました。
今回の研究の対象はイヌでしたが、認知の偏りは視力よりも認知能力の低さで起こるという事実は人間の、そしてあらゆる動物の行動にも関わる研究と言えそうです。