おしっこが黄色くなるまでの流れ
まずは尿を黄色くする物質について、これまで分かっていることを見てみましょう。
科学者たちは過去の研究で、尿の黄色は体が古くなった血球(血液中に浮遊している細胞)をどのように処理するかに由来することを知っていました。
赤血球が約120日間の寿命の終わりに達すると、肝臓によって分解され始めます。
このときに作られる副産物の一つが、オレンジ色の分子である「ビリルビン(bilirubin)」です。
ビリルビンは基本的に肝臓から腸に分泌し、体外へ排出されますが、部分的に体に再吸収されることもあります。
ここでビリルビンが過剰に再吸収されると、血液中で大量に蓄積し、皮膚や目が黄色くなる「黄疸(おうだん)」を引き起こしてしまいます。
他方でビリルビンが正常に腸内に入ると、そこに常在している腸内細菌がビリルビンを「ウロビリノーゲン(urobilinogen)」という無色の物質に変換します。
その後、ウロビリノーゲンは尿の色のもととなる黄色い色素の「ウロビリン(urobilin)」へと自然分解されるのです。
(ちなみにウロビリノーゲンが分解されて、茶色い分子の「ステルコビリン(stercobilin)」になったのが、便の色のもとになります)
このように物質の流れは十分に解明されているのですが、科学者たちはまだ「ビリルビンをウロビリノーゲンに変換する原因物質」を特定できていませんでした。
腸内細菌で変換が起きることは確かなのですが、腸内細菌の「何が」変換を引き起こしているのかは分かっていません。
ウロビリノーゲンは後に黄色色素のウロビリンに変わるため、ビリルビン→ウロビリノーゲンの変換に関わる原因物質を特定するのはとても重要です。
加えて、この物質の解明は「黄疸」や「炎症性腸疾患(IBD)」の理解にもつながるといいます。
先ほど言ったように、黄疸は血液中のビリルビンの蓄積が原因で発症し、IBD患者はウロビリン値が健康な人に比べて低くなることが知られています。
つまり、黄疸もIBDもビリルビンがウロビリノーゲンに変換されていないことが原因と考えられるのです。
こうした医療上の問題のためにも、本研究チームはビリルビンをウロビリノーゲンへと変換させる物質を探すことにしました。