ネット上の匿名性は感情的で不合理な発言や行動を増やす
SNSの投稿や掲示板の書き込み上でのトラブルは日常にありふれています。
インターネットは、他者と気軽に意見を交わすことができる場であるのは間違いありません。
自分の見識を広めたり、物理的に距離が離れた人との交流を可能にします。
しかし時に配慮のない言葉や悪意を持った「荒らし」により、特定の個人に誹謗中傷や人格攻撃の言葉が集中することもあります。
「ブスなのに勘違いしている」「彼の父親は犯罪者だから粗暴に違いない」「〇店で食べたけど店員の態度が最悪だった」など…。
このような発言はネット上では見かけるものの、普段対面の場であまり耳にすることはないように思われます。
ではなぜネットやSNSでは、誹謗中傷が多くなってしまうのでしょうか。
これまでの心理学の研究では、反社会的な発言や他人を攻撃する発言を増やす要因としてネット上の「匿名性」があると考えられてきました。
Facebookは実名での登録が基本ですが、日本人ユーザーが多いX(旧Twitter)、InstagaramなどのSNS、そしてネット掲示板は匿名で投稿できます。
匿名性により自由に発言する場所が作られ、個人の率直な情報発信や意見の表明が促されるのもたしかです。
しかし匿名性は、名前や顔を隠すことで個人が集団の中に埋もれ、自分に注意が向かずアイデンティティが希薄になる「没個性化」を生じさせます。
その結果、他者から自分自身が評価される感覚が薄くなり、責任や恥、罪悪感が鈍る一方で、自身を認識してほしいという欲求から感情的で不合理な発言や行動をしてしまうのです。
たとえば米ノール・フロリダ大のアダム・ジマーマン氏(Adam Zimmermann)らの研究では、匿名性が保たれた人は、周りの攻撃的な書き込みに同調しやすく、攻撃的な主張をしやすいことを報告しています。
しかしこれまで匿名性が個人の行動をどのように変えるかは検討されてきましたが、何を目的として人が匿名性を求めるのかはわかっていませんでした。
そこでオーストラリアにあるクイーンズランド大学のルイス・ニチンスク氏(Lewis Nitschinsk)らの研究チームは、匿名を選ぶ動機について調べています。