知れば知るほど、自分が知らないことに気づく
「適切な判断を下すために必要な情報が足りていないにも関わらず、重要な事実はすべて知っていると思い込み、自信に満ちた判断を下してしまう」
この心理現象を研究チームは独自に「情報十分性の錯覚(illusion of information adequacy)」と呼んでいます。
要するに、ある問題に関する情報を半分しか持っていないのに「自分が正しい判断をするのにはこの情報だけで十分だ」と錯覚してしまうのです。
その理由について研究者は「私たちの脳には知っていることが少なければ少ないほど、知るべきことはすべて知っていると思い込む傾向がある」ことを指摘します。
これは心理学用語で「ダニング=クルーガー効果」と呼ばれ、自分の知識や能力が不足しているにも関わらず、過大に評価してしまう心理現象です。
ダニング=クルーガー効果は自身の思考や判断などを客観的に把握するための「メタ認知能力」が不足することが原因で起こるとされています。
ある問題についての知識や情報が不足していると、自分の意見が他と比べてどう違うのか、それを踏まえて自分の意見は正しいのか間違っているのかといった客観的な判断が難しくなり、自分の意見を過大評価しやすくなるのです。
逆にダニング=クルーガー効果では、知識や能力が高まれば高まるほど、メタ認知能力も高まるため、「自分はまだまだ何も知らない」「学ぶべきことが山ほどある」と思い込むようになります。
つまり、人間は何も知らなかったときほど「自分はなんでも知っている」と思い込み、世界について多くを知れば知るほど「自分は何も知らなかった」ことを知るのです。
これは古代ギリシャの賢人ソクラテスの唱えた「無知の知」を意味します。
この「無知の知」は誰もが日常の中で実感しうることです。
例えば、趣味のアニメや映画でも、最初の1〜2年で有名どころのタイトルを一通り見終わると「自分はもう全部見切ったんじゃないか」と思い込みます。
しかしより深く掘り下げていくと「なんだ、自分が見てきたのは氷山の一角に過ぎなかったのか…」と気づくことがあるのではないでしょうか?
今回の研究結果は、これと同じ現象が日常の会話の中でも起こっていることを指し示しています。
そこで研究主任のアンガス・フレッチャー(Angus Fletcher)氏は、ある問題について判断を下す前に、自分が本当に十分な情報を知っているかを確認すべきであると指摘しました。
「私たちの研究が示しているように、人々は知っている情報が不足しているときほど、『自分の判断は適切で正しい』と錯覚しやすくなります。
誰かと意見が食い違うとき、まず最初に取るべき行動は相手を非難することではなく、『相手の立場をよりよく理解するために、自分に欠けているものはないか』と考えることでしょう。
それが『情報は十分に足りている』と思い込む錯覚と戦う最適な方法なのです」
「井の中の蛙、大河を知る」って、ヤツね。
大河でなく大海だったと思いますが