「狩ると増える」理由をつきとめる
なぜコヨーテは人間の狩猟に耐えて増え続けているのか?
調査にあったっては、まずアメリカ全土に4587台のカメラを設置され、コヨーテの生息数の大規模な調査が行われました。
そして得られたデータを、環境や都市化レベル、狩猟が許可されているかどうかなど、さまざまな要因と比較し、相関関係を探し出しました。
すると驚くべきことに、コヨーテの狩猟が許可されている場所はそうでない場所よりも、コヨーテの生息数が多くなっていることが判明しました。
つまりコヨーテは「狩ると増える」状態になっていたのです。
研究者たちも「集中的なコヨーテの駆除は短期的には個体数を減らすことができますが、駆除によってコヨーテ全体の平均年齢が下がる種の若返りが進行し、繁殖率や移住率が高くなる可能性がある」と述べています。
もしコヨーテの肉や骨、毛皮がかつてのマンモスのように人類にとって必要不可欠な資源であったならば、人類の動物保護意識が高まる遥か前にコヨーテは絶滅してしまったでしょう。
(※ニホンオオカミが絶滅した背景には明治政府による高額な報奨金の存在も指摘されています)
しかしコヨーテから得られる資源に人類はそれほど興味を示さず、歴史的にみても狩猟は積極的な利益追求のためではなく、基本的には損害を減らすための出費となっていました。
狐の毛皮とコヨーテの毛皮の需要の違いをみても明らかでしょう。
狩猟自体がが利益を生んでいた動物(マンモスなど)と狩猟自体がコストとなる動物(コヨーテ)のでは、そもそもの狩猟圧力に違いがあります。
ある意味で、人類のコヨーテに対する狩猟はその場しのぎの対処であり、管理面や計画性において不十分なものでした。
このことがコヨーテの個体数に予測不能性を与えた要因の1つになります。
また研究では他にも、人間の生活圏(都市と農地)も、コヨーテの個体数増加に寄与する場合があることが示されました。
コヨーテの個体数は十分な獲物と隠れ家を提供してくれる草原と農地で最も多いことが示されたからです。
実際、都市の規模が大きな地域ほど、コヨーテの個体数が多いことがわかりました。
この結果は、コヨーテはもともとの自然環境と人間が改変した環境の両方から利益を得ていることを示しています。
コヨーテは自然環境にあっては従来の生き方を続け、人間の生活圏にあってはそこに適合していたわけです。
必然的に人間の生活圏にコヨーテが入り込んで来ることになります。
さらに人間によるライバルの消滅もコヨーテの数に多くの影響を与えていました。
人間の入植が行われた多くの地域では、ピューマやオオカミなどコヨーテのライバルとなる肉食動物の絶滅が起きたため、コヨーテが増殖できる余地が増えたのです。
他にも森林に生息するクマの数が多いほどコヨーテの数が減少するといった負の相関関係も発見されました。
自然界においては、彼らライバルの存在が足かせになりコヨーテの増殖を抑えていたのです。
しかし人間の狩猟のせいでライバルたちが排除され、コヨーテの1人勝ち可能な状況が整ってしまったのです。
以上の結果をまとめると、人間はコヨーテが好む農地や都市環境を増やし、コヨーテのライバルを排除するという2つの恩恵を与えて増殖の下地を作り、その上で不徹底な駆除を行って種の若返りを誘発しまいました。
ある意味で、ジャンプ台を用意して上から押さえつけたのと同じと言えるでしょう。
結果、コヨーテの個体数は反発を起こすようにして増加していきました。
この結果は複雑な自然界においては「狩れば減る」という単純な予測が非常に危険であることを示しています。
野生動物に異常な増加を起こさせないためには、単にターゲットとなる動物を殺すだけではなく、種全体の年齢ピラミッドや捕食者となる種やライバル種の数も考慮に入れて総合的な判断が必要となるでしょう。
実際、今回の調査を行った研究者たちは「コヨーテの個体数を減らすのには短期的な駆除よりもライバル種が長期にわたり存在し続けるほうが重要だった」と結論しています。
現在、日本各地で野生動物の個体数が増加したり、人間の生活圏に入り込むという事件がみられます。
私たちはそれに対して、たびたび駆除を行い続けています。
「人間の活動は生態系に大きな影響を与える」ということは誰もが知ることですが、コヨーテの例は短期的な対処療法がかえって予想できない悪影響を及ぼす可能性を示しています。
コヨーテの「狩ると増える」という結果は、自然界から人間への警鐘となるのかもしれません。
大木をある程度間引いて倒すと日当たり良くなってその周りに新木は栄えるみたいな現象やな