世界最細のスパゲッティはどうやって作る?
現在、世界で最も細いスパゲッティは、イタリアのサルデーニャ島で伝統的に作られる「フィリンデウ(Filindeu)」です。
フィリンデウは現地の言葉で「神の糸」を意味しており、1本の直径は約400μm(マイクロメートル)となっています。
(1マイクロメートルは1000分の1ミリメートル)
フィリンデウは熟練の職人が手ごねで作っており、中国の伝統的なお菓子として知られる「龍のひげ飴」を作るときと同じように、細く伸ばした1本の生地を半分に畳んで引き伸ばして2本にし、これを延々と繰り返して、極限まで細くする手法です。
実際の様子がこちら(動画の全編は記事の最後に添付してあります)。
できあがったフィリンデウは普通のスパゲッティのようにほぐして食べるのではなく、シート状に3枚重ねにして乾燥させ、スープの中に入れて食べます。
フィリンデウが非常に極細であることは間違いありませんが、UCLの研究チームが新たに作ったスパゲッティはフィリンデウよりさらに1000倍も細いものでした。
そんな超極細のスパゲッティを手ごねで作ることは不可能です。
そこでチームは「エレクトロスピニング(電界紡糸)」という技術を応用しました。
これは一言で説明すると、小麦粉と液体の混合物を超極細の筒状の中に入れ、それを電気の力を使って引っ張り出す方法です。
具体的にはまず、デンプンを主成分とする小麦粉に、水ではなく「ギ酸」の溶液を混ぜて混合物を作ります。
これはギ酸を入れることでデンプンを形作る螺旋(らせん)構造をほぐすことができ、それによって細さを増すことが可能だからです(上図a)。
次に、この混合物を注射針のような容器の中に入れて、先端の超極細の筒から電気の力を使って中身を引っ張り出します(上図b)。
こうして直径372nmの超極細スパゲッティを作ることに成功しました。(1ナノメートルは100万分の1ミリメートル)
またギ酸は筒状から引っ張り出されて、空気中に晒されることで蒸発して消えます。
研究主任の一人であるアダム・クランシー(Adam Clancy)氏は「通常のスパゲッティを作るには小麦粉と水を混ぜたものを金属の穴に押し込みますが、私たちが行ったのは電気で引っ張るという違いこそあるものの、文字通りスパゲッティと同じ成分であることは確かです」と話しました。
ただし、このスパゲッティは食用にはまったく向いていません。
熱湯に入れると1秒も経たないうちに火が通り過ぎてしまうからです。
また1本1本は細すぎるあまり、目で見ることはできません。
そこでチームはこれを2センチ四方のシートとして整形しました。
これは食べる用ではなく、医療用としての活躍が期待されるといいます。
しかしなぜスパゲッティと同じ成分で医療用シートを作ろうと考えたのでしょうか?