認知症患者で「SSRI」と「知能低下」が相関している
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SSRIは、脳内の情報のやり取りを担う神経伝達物質であるセロトニンの量を増やすお薬です。
脳はセロトニンを使って気分ややる気を調整していますが、うつ病ではしばしばこのセロトニンの不足が発生します。
そこでSSRIはセロトニンが再び吸収されるのを防ぐことで、より多くのセロトニンが脳内に残るようにし、うつ病などで気分が落ち込む症状が改善される効果が期待されています。
SSRIは旧来の抗うつ薬(三環系)などと比べ、副作用(抗コリン作用や心血管系への影響)が少ないとされ、高齢者にも比較的安全と言われてきました。
そのため、世界各国の臨床ガイドラインでは、うつ病治療の第一選択薬としてSSRIが推奨されることが多く、処方率が高まる要因になっています。
実際、欧米をはじめ多くの国で、高齢者への抗うつ薬処方のうち半数超がSSRIに及ぶという報告があります。
今回の研究でも、調査対象となった認知症患者における「抗うつ薬の処方」のうち、64.8%がSSRIでした。
これほどまでに普及している背景には「比較的安全である」という認識があったと言えます。
しかし今回、これまでの安全神話を覆しかねない結果が得られました。
新たな研究では、スウェーデンで2007年から2018年に新たに認知症と診断された方々(平均年齢78歳)約1万8,740人の「抗うつ薬の処方」と「認知機能の変化(MMSEスコアの推移)」が追跡されました。
結果、抗うつ薬を全く使用していない群(非使用群)と比較し、抗うつ薬全体を使用している患者群では、年間でMMSEスコアが平均0.30ポイント余分に低下していることが判明しました。
さらに、特に3種類のSSRI「セルトラプラン(セレクサ)、シタロプラム(ジェイゾロフト)、エスシタロプラム(レクサプロ)」の使用者では、その影響がさらに顕著で、非使用群に比べ年間で平均0.39ポイントの追加低下が観察され、SSRIが認知機能低下を加速させるリスクが示唆されました。
個別のSSRIでは、
- セルトラリン(商品名はセレクサ): −0.25ポイント/年
- シタロプラム(商品名はジェイゾロフト): −0.41ポイント/年
- エスシタロプラム(商品名はレクサプロ): −0.76ポイント/年
との結果が得られています。マイナス分は抗うつ薬を飲んでいない人との比較になります。使用された認知機能テスト(MMSE)は30点満点で、一般的には24点以上が正常とされており、健常者と比べてエスシタロプラム(レクサプロ)の年間0.76ポイントの追加低下は特に注目されます。
また、高用量SSRIが使用されている場合では、重度認知症に悪化するリスクが最大で35%高く、全死亡リスク(あらゆる死因によるリスク)も18%高く、骨折リスクも25%高くなっていました。
以上の結果は、これら3種類のSSRIの使用者はそうでない人よりも知能低下が進みやすい傾向が見られ、骨折リスクや死亡リスクも上昇していることを示しています。
以下は論文に書かれている結論を引用したものになります。
この研究では、抗うつ薬の現在の使用は認知機能の低下を早めることに関連しており、さらに、SSRIの処方量が多いほど、重度の認知症、骨折、全死亡率のリスクが高くなることが示されました。これらの結果は、認知症患者におけるさまざまな抗うつ薬の使用のリスクと利点を評価するために、注意深く定期的にモニタリングすることの重要性を強調しています。
一方で注意点もあります。
今回の本研究はあくまで相関研究であり、直接的な因果関係を証明したわけではありません。
例えば、認知症が進行している重症患者では、もともと行動・心理症状が顕著なため、SSRIが選択されやすいというバイアスも考慮する必要があります。
なお、今回の研究で検討されたSSRIは一部に過ぎず、他のSSRI全体に同様のリスクが当てはまるとは限らないため、全てのSSRIを一括して危険と断定するのは慎重であるべきです。
(※日本で処方されている主なSSRIは、研究で調べられたものに加えてプロザック(フルオキセチン)、パキシル(パロキセチン)、ルボックス(フルボキサミン)などが知られていますが、それらについては研究では触れられていません。)
ですが、これまで「副作用が少なく高齢者にも使いやすい」とされてきたSSRIが、認知症患者の知能低下を加速させるかもしれないという警鐘を鳴らした点で、この研究の意義は大きいでしょう。
(※なお本研究では、もう一つの主要な抗うつ薬クラスであるSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)については、明確な認知機能低下との関連は確認されませんでした。)
研究チームは、「今回の結果を踏まえ、SSRIやその他の抗うつ薬がどの程度認知症進行に影響するのか、さらなる検証が必要だ」と強調しています。
急速な高齢化が続く日本においても、本研究結果は大きな影響を与えると考えられます。