光速に近い速度で移動する物体は回転して見える

どのようにして「光速に迫る物体の見え方」を再現したのか?
研究チームがとった方法は、一言でいえば「光を超スローモーションで観察する」工夫です。
まず、1ピコ秒(1兆分の1秒)ほどの極短パルスレーザー光を物体に当てます。
同時に、カメラ側も“ゲート”と呼ばれる超高速のシャッターをピコ秒単位で開閉し、散乱して戻ってきた光をわずかな時間だけ撮影できるようにします。
こうすると、ごく短い距離を進んだ光だけを切り取ることができるのです。
ある意味で、光がわずか数センチ進む“瞬間”をスナップ写真のように連続で記録しているわけです。
ここでユニークなのが、撮影するたびに、実際には動いていない被写体の位置をちょっとずつ移動(再配置)するというアプローチです。
「本当に物体が光速に近いスピードで動く」のは現実的に無理ですが、この組み合わせにより「光はごく短い距離だけ進んでからカメラに届く → 被写体がわずかに動いたように見える → その連続画像をつなげる」といった仕掛けを作ってしまいます。
たとえばカメラが1回シャッターを開いている間に光が進む距離はわずか数センチほどなので、理想的には「実質的に光速が1秒間に2メートル程度しか進まない」ように見せることができるわけです。
実験では、球と立方体の「ローレンツ収縮した模型」を用意しました。
たとえば球なら運動方向に薄い円盤のように潰したモデルを置き、これをわずかに傾けながら撮影します。
レーザーを照射して、戻ってくる光をピコ秒単位で何度も“切り取る”ことで、球が動いていると仮定した際にカメラに収まるはずの光を再現し、最後に映像として合成していきます。
すると理論で言われていたように、球はまるで回転しているかのように見え、立方体も正面がわずかに“ずれて”奥行きをのぞき込んだような姿で写りました。
言い換えれば「近光速で移動しているならば、本来もっと潰れて見えるはず」のオブジェクトが“ほぼ潰れておらず、むしろ傾いて見える”ことが映像として確かめられたのです。
実験結果の写真には、実際にフロントとバックの面が二重に映りこんだような面白い部分もあります。
これは、球面状に広がるレーザー光や被写体のわずかな傾きなどが影響しており、理想的な平行光ではないがゆえに起こるものです。
理論が示す回転のイメージと重ね合わせると「なるほど、この角度で面が重なって見えるのか」と合点がいくものになっています。
こうした細部も含め、ローレンツ収縮が写真には“直に現れない”というテレル効果の核心を、映像として視覚的にとらえられた点が大きな成果といえます。