勝つと凶暴化?常識を覆す“勝利”の副作用

男性が性的な攻撃性を示す要因については、大きく二つの理論が長らく議論されてきました。
一つは「男性が優位に立ちやすい権力構造が性的暴力を助長する」という視点で、フェミニスト理論とも呼ばれます。
もともと女性が社会的不平等に置かれてきた現実を告発し、そこから派生するあらゆる暴力構造(特に男性による女性への支配)を批判・研究する潮流が“フェミニズム”であり、歴史的に男性が有利になりやすい制度や文化が残っていると、日常生活の中でも攻撃的行動をとる誘因が高まると考えられているのです。
もう一つの理論は、「進化論的視点」です。
これは主に動物行動学や進化心理学などの知見をもとに、オス同士の地位争いや闘争本能が男性の攻撃性に影響すると説明します。
ライオンの群れなどでボスの座を失うと、繁殖や生存に不利な状況に追いやられる――人間社会にも似たような競争構造があるのではないか、というわけです。
しかし実際のところ、男性の性的攻撃性がどのように生じるかは、これら二つの理論だけでは必ずしも説明しきれないようです。
たとえば、単純に「負けて悔しいから攻撃的になる」というわけではなく、むしろ“負けたことで意欲が削がれ、攻撃行動までには至らない”と示唆する研究結果も存在します。
これは動物実験でも見られる現象で、敗北が決定的になると闘争欲が急速に萎縮し、結果的に性行動まで減少するケースがあるのです。
人間社会でも、敗北した途端にやる気を失い、攻撃衝動がすっかり消えてしまう例は少なくありません。
一方で、「勝利」と「性的攻撃性」の関係を探る研究も増えています。
スポーツ心理学では、試合に勝利した男性アスリートのテストステロン値が急上昇して興奮状態が続き、攻撃的行動に出やすくなるという報告があります。
ただし、このホルモン増加が行動に与える影響は人によって異なるとされ、共感性やサイコパス傾向など個人の性格特性が大きく関与すると見られています。
そこで今回の研究は、“勝ち負けのはっきりした競争”と“サイコパス的特性”を同時に検証し、男性の性的攻撃行動がどう引き起こされるのかを掘り下げようとしました。
フェミニスト理論と進化論的視点が指摘する要素を合わせて考えることで、“勝利”がどのように人の支配欲や攻撃衝動を刺激するのかを実験的に明らかにする狙いがあったのです。