人はもともと複数の「自分」を持っている
私たちはつい、「本当の自分はどれなのか」と考えがちです。
けれど心理学では、人のアイデンティティは一枚岩ではなく、いくつもの側面が組み合わさってできていると考えられています。
たとえば、ある人は仕事では専門職として振る舞い、家では親や子どもとして生活し、友人の前ではまた別の顔を見せます。
さらに、趣味の場では走る人、音楽を楽しむ人、旅を愛する人としての側面が立ち上がるかもしれません。
こうした複数の顔は、ばらばらなものではなく、その人の全体を形づくる大切な要素です。
この点を社会学の立場から検討したのが、ペギー・ソイツの研究(1983年)です。
彼女は、人が持つ社会的な役割やアイデンティティが多いほど、心理的な苦痛が少ない傾向があることを示しました。
ここでいう役割とは、親、友人、同僚、地域の一員、趣味仲間など、社会の中で自分が占める位置のことです。
なぜそれが心の支えになるのでしょうか。
分かりやすく言えば、自分の土台が一つに集中しなくなるからです。
もし「自分は仕事で成果を出す人間だ」という一点だけで自分を支えていると、その領域でつまずいたときに、失敗以上の打撃を受けやすくなります。
仕事の問題が、そのまま「自分には価値がない」という感覚につながってしまうからです。
ですが、その人が同時に「家族の一員としての自分」「友人としての自分」「学び続ける自分」「趣味を楽しむ自分」も持っていれば、一つの領域が揺らいでも、自分全体まで崩れずにすみます。
つまり、複数のアイデンティティは、心への衝撃をやわらげる足場のような役割を果たすのです。
人は一つの肩書きだけでできているわけではありません。
そのこと自体が、実は大きな強みなのかもしれません。
複数のアイデンティティをもつメリットは他にもあります。




























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