陰謀論を信じる人々によって家庭崩壊が起きている
陰謀論を信じる人々によって家庭崩壊が起きている / Credit:Canva
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陰謀論を信じる人々によって家庭崩壊が起きている (2/3)

2025.06.02 22:00:16 Monday

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その“目覚め”は家族崩壊の合図だった

その“目覚め”は家族崩壊の合図だった
その“目覚め”は家族崩壊の合図だった / Credit:Canva

フィリップス氏は、2019年半ばから2023年末までの約4年半にわたり 「Qアノンの犠牲者たち」に投稿された「family(家族)」という単語を含む全投稿・コメントを収集しました。

その結果、6,000件以上の投稿と53,000件以上のコメントからなるデータベースが構築され、そこから「家族」に関連する約7万5千の文が得られました。

これほど膨大なテキストを分析するため、フィリップス氏は BERTopic と呼ばれる機械学習手法を用いて投稿内容を自動的に分類しました。

BERTopic は文章の意味に基づいてテーマをグループ化できる AI アルゴリズムであり、この分析により掲示板上の議論が58トピックに分類されたのです。

その中でも特に出現数が多かったのは「深い悲嘆・喪失感」「恐怖・不安」「家族行事での衝突」「パンデミック関連の対立」などで、最多トピックだけで全体の 12%弱を占めており、多くの投稿に共通していたのは深い心の傷でした。

悲嘆や絶望、不安、恐怖といったテーマが頻出し、投稿者たちは自分がまるで家族を「カルト」に奪われ、生きながらにして死別したかのようだと感じていることが伝わってきます。

データにもそれが現れており 「誰が QAnon を信じているのか/信じていないのか」についての話題ではfamily(家族)、mom(お母さん)、dad(お父さん)、mother(母親)、father(父親)、brother(兄・弟)、sister(姉・妹)、husband(夫)、wife(妻)、kids(子どもたち)などの近親者の単語が最も多くみられました。

またそれらに連動してgrief(深い悲しみ)、worried(心配している)、scared(怖がっている)、afraid(恐れている)、upset(動揺している)という「悲嘆」「不安」「恐怖」を表す単語が多く出現していました。

これらは近親者が陰謀論に捕らわれたことについて多くの人々が嘆きをあげていることを示しています。

たとえばある投稿者は「私は打ちのめされています。家族を失いました。生きている人を、まるで死別したかのように嘆き悲しんでいます」と綴り、家族を陰謀論に奪われた喪失感を訴えました。

実際、一部の投稿では、銃や食料を買い込んだり、マイノリティやLGBTQ+への敵意が強まったという証言もありました。

しかし、すべてが絶望的な内容だったわけではありません。

投稿全体の一部ではありますが、希望や和解、問題への対処法に関する話題も見られました。

家族とどう向き合うかについてユーザー同士が助言を交換し、たとえば陰謀論の話題を避けながら家族行事を何とか無事に過ごす工夫や、COVID-19 や政治の話をする際の注意点、精神的な距離感の保ち方などが議論されました。

実際に Qアノン を脱した家族と関係を修復できたという成功談も共有され、同じ境遇の人々への励ましとなっていました。

特に注目すべきは、現実的な問題への対処に関するトピックが人気を集めていたことです。

投稿の中でも高い支持を得ていたのは、パンデミック下での家族間対立――例えばワクチン接種やマスク着用、ソーシャルディスタンスを巡る意見の食い違い――への対処法や、陰謀論を信じる家族と過ごす年末年始のイベントの切り抜け方といった実践的な相談でした。

また、愛する家族と対話する方法を求める投稿も広く共感を集めており、多くの人が可能であれば関係を修復したいと願っていることがうかがえます。

分析から、陰謀論に傾倒する人の家族内での立場も実に様々であることが明らかになりました。

投稿では信奉者として「母」「父」「兄弟姉妹」「夫・妻」などあらゆる家族が言及されており、特定の年代や性別に限らず誰もが Qアノン に染まりうる現実が浮かび上がっています。

さらに、この掲示板は当事者同士の支え合いの場ともなっていました。

多くのユーザーは自分と同じ悩みを抱える人々がいることに救われたと語り、コミュニティへの感謝を述べています。

実の家族関係が耐え難いほど悪化した場合は、気の合う仲間と「選択家族」を築こうという声も見られました。

なお、投稿者たちの間では Qアノン は明確に「カルト」として捉えられていました。

掲示板では Qアノン による急進化の過程が、麻薬やアルコールの依存症に陥った家族を支える場合に似ているとの指摘もあり、いわば脱洗脳が必要だというニュアンスで語られる場面もありました。

フィリップス氏は「このフォーラムの投稿者たちは、陰謀論によって家族が受けた悪影響や、求めるサポートネットワーク、そして家族間の摩擦を解消するための様々な戦略について、実に多くを語っている」と指摘します。

具体的には「辛抱強く接し、政治の話題を避ける」という穏健な方法を勧める声から、「もはや離婚や接近禁止命令もやむなし」といった極端な決別を提案する声まで、意見は分かれていました。

皮肉なことに、陰謀論を信じる側の家族も信じない側の家族も、どちらも「家族を救う」という同じ目的で衝突か断絶という相反する手段を取ってしまっている場合が多いとフィリップス氏は述べています。

また、この掲示板上では「陰謀論が家族に及ぼす影響をもっと研究してほしい」という切実な訴えも散見され、フィリップス氏自身、この点に心を動かされたと明かしています。

次ページ陰謀論は“個人の趣味”で済まない――家族崩壊の連鎖をどう止める?

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