「星を読む虫」夜空に導かれる神秘の大移動
オーストラリアの春。
気温が上がり始める頃、南東部一帯の大地から、無数のボゴン・モスがいっせいに羽ばたきます。
その数、毎年数十億匹。
目的地は同大陸の東海岸にあるオーストラリアアルプス山脈の冷たい洞窟です。
彼らは夏の間そこで「夏眠(aestivation)」と呼ばれる休眠状態に入り、秋になると再び南東部へ戻って繁殖し、命を終えます。

ボゴン・モスの寿命は1年ほどなので、長距離移動をして洞窟に行くのは生涯に1度きり。
つまり、全員が初めての長旅なわけですが、なぜ彼らは一度も訪れたことのない洞窟に正確に辿り着けるのでしょうか?
長年、この謎に挑んできたのが、動物のナビゲーション能力を研究する今回のチームです。
チームはこれまでの研究から、ボゴン・モスが地球の磁場を利用する「磁気ナビゲーション」と視覚的な手がかりとなる「星空の位置」の両方を使っていると推測していました。
そして今回の実験でチームは、磁場を無効化した状態でも、ボゴン・モスは星空さえあれば正確に進路を保てることを初めて実証したのです。

チームは、磁場の影響を排除できる装置「ヘルムホルツコイル」を使い、真空チャンバー内に夜空の映像を投影。
星空があるとき、ボゴン・モスは季節にふさわしい方向(春なら南、秋なら北)に迷わず飛びました。
逆に、星空を180度回転させると、ボゴン・モスも180度方向を変えました。
一方で、星の位置を実際とは違い、ランダムに並べ変えると、ボゴン・モスの方向感覚は失われました。
つまり、ボゴン・モスは「星のパターンを読み取り、方角を決定していた」のです。
しかも、この行動は生得的なもので、生まれて初めて空を飛ぶ個体でも正しい方向をとれることが示されています。