星に導かれる驚異の脳コンパス
さらにチームは、ボゴン・モスの脳を詳細に調べました。
神経科学者アンドレア・アッデン氏は、超微細なガラス電極を用いて、ボゴン・モスの脳細胞の一部に直接触れ、その電気活動を記録しました。
記録対象となったのは「ナビゲーションに関与する」と見られる脳領域。
そこに、星空を回転させた映像を見せたところ、28個の神経細胞が空の向きの変化に強く反応しました。
一方、ランダムな星空には反応しなかったのです。
これはボゴン・モスの脳が「空の構造そのもの」を理解し、進路決定に使っている証拠といえます。

この能力をもつ他の動物としては、ヒト、鳥類、アザラシ、カエル、さらにはフンコロガシなどが知られていますが、ボゴン・モスのように星を頼りに何週間もかけて長距離移動する昆虫は、世界で初めて確認されました。
フンコロガシは、糞玉を他の虫から遠ざけるために数分ほど移動すればよく、目的地もなければ直線性すら重視しません。
それに対し、ボゴン・モスは「時間内に」「特定の場所へ」たどり着かねば生き残れないという、極めて厳しい旅をしているのです。
そしてこの星空ナビゲーションには、さらなる高度な補正能力も備わっています。
地球が自転しているため、星空は一晩のあいだに少しずつ回転します。
ボゴン・モスはこの「天体の回転」さえも補正しながら、長時間、直進を維持していると考えられています。
つまり、星空という巨大な羅針盤を、動的に読み解きながら飛んでいるということなのです。
また重要な点として、雲によって星空が見えなくなった場合は、地球磁場を利用してナビゲーションの正確性を保っていたことも示されました。
この発見は、昆虫の驚異の移動能力を明らかにするだけでなく、夜間ナビゲーションを必要とするドローン技術やロボットのセンサー開発にも応用が期待されています。