生きた肉に寄生する「ラセンウジバエ」とは?その恐るべき生態
ラセンウジバエ(学名:Cochliomyia hominivorax)は、ウジ虫(幼虫)の形で生きた哺乳類に寄生し、内部から組織を食い荒らす極めて特殊な寄生性のハエです。
このハエの成虫は一見すると普通のハエに似ており、特段目立つ外見ではありません。
しかし問題はそのライフサイクルにあります。
メスのハエは、哺乳類の開いた傷口やへその緒、目元などに200〜300個の卵を産みつけます。
卵は12〜24時間で孵化し、ウジ虫が生まれるとすぐに宿主の肉に食い入り、生きた組織をエサにして成長していきます。
幼虫は体を螺旋状にねじ込みながら進み、まるで生体を内側から削り取るように侵食します。
この様子から“Screwworm(スクリューワーム)”と呼ばれており、日本語ではラセンウジバエと訳されます。
この寄生行動は動物にとって非常に致命的で、成牛であっても1〜2週間以内に死亡することがあるとされます。
対象は家畜(牛、馬、豚)にとどまらず、犬や猫、そして人間も例外ではありません。
この恐るべき寄生虫を米国から根絶するため、1950年代〜1980年代にかけて大規模な防除作戦が展開されました。
主な方法は「不妊虫放飼法」と呼ばれるものです。
放射線で不妊化したオスのハエを大量に人工繁殖し、散布します。
これにより野生のメスと交尾させ、次世代が生まれなくなることで個体数を減らしていく方法です。
この方法は驚くほど効果的で、1982年には米国本土での駆除が完了し、それ以降も再侵入を防ぐための国際的な監視体制が維持されてきました。
しかし、2023年以降、この寄生虫がメキシコ南部で検出されており、北上の兆しが見られています。
そしてこの度、アメリカ在住の女性が、このラセンウジバエに寄生されていたことが分かりました。