鬼の居ぬ間に食事を済ませていた…
クヌギの樹液場には多種多様な昆虫たちが集まりますが、その顔ぶれは昼と夜とで大きく異なります。
昼間に姿を見せるのはチョウ類やカナブン、ハチの仲間です。
中でもオオスズメバチは、圧倒的な戦闘力でヒエラルキーの頂点に君臨し、他の昆虫を追い払って樹液場を独占します。
他方で夜間に集まるのはカブトムシやクワガタ、ガの仲間です。
この中では、最もサイズが大きく丈夫な体を持つカブトムシがやはり有利な地位を占めています。
それでは、昼の王であるオオスズメバチと夜の王であるカブトムシが遭遇したら、どうなるのでしょうか?
この疑問に答えるべく、研究チームは山口県内のクヌギ林にて、樹液場に集まるカブトムシを観察。
すると明け方の5時頃に、数匹のオオスズメバチが樹液場にやって来て、カブトムシの脚に噛みつき、次々とクヌギから剥ぎ落としていったのです。
カブトムシは硬い外骨格に守られていますが、ハチの強靭なアゴで脚に噛みつかれると、しがみつく力が奪われ、クヌギからポロリと落下していきました。
さらに、凶暴なスズメバチはカブトムシを木から落とすだけでは飽き足らないようで、地上に落ちたカブトムシを執拗に追い回し、攻撃を続けていたのです。
当初10匹以上もいたカブトムシは、ハチの襲来からわずか数分で完全に排除され、樹液場を乗っ取られていました。
オオスズメバチによる排除行動は、観察を行った3日間の早朝すべてで確認されています。
では、もしオオスズメバチの襲来がないとすれば、カブトムシの活動時間帯に変化は出るのでしょうか?
そこでチームは、スズメバチ除けのスプレー「スズメバチサラバ(株式会社 KlNP)」を使って、オオスズメバチを樹液場から継続的に駆除する実験を行いました。
早朝〜正午にかけて、樹液場にやって来たオオスズメバチにスプレーを噴きかけ、クヌギの木に降り立つのを阻止しました。
その結果、夜行性と思われていたカブトムシの実に半数以上が、そのまま正午まで樹液場に留まり続けたのです。
このことから、カブトムシは根っからの夜行性というわけではなく、オオスズメバチがいなければ、明るい時間帯でも十分に活動しうることを示しました。
つまり、カブトムシは鬼の居ぬ間に食事を済ませ、スズメバチのやって来る明け方になると、そそくさとその場を退散しているようです。
これと別に、近年の研究で、シマトネリコという木に集まるカブトムシは、昼間になっても樹液を吸い続けることが明らかになっています。
シマトネリコにはスズメバチもやって来ますが、不思議なことに、彼らがカブトムシに危害を加えることはありません。
その理由について研究者は、シマトネリコはクヌギと違い、1本の木に多数の樹液場が存在するため、少ない餌場を取り合う必要性がないからだと説明します。
この点からも、カブトムシの活動がいかにスズメバチの影響を被っているかがわかります。
日本では”昆虫の王様”のイメージが強いカブトムシも、オオスズメバチには恐れをなして太刀打ちできないようです。
こちらは、樹液場のカブトムシがオオスズメバチによって排除される様子を捉えた映像。