蚊は交尾に聴覚を利用する
寝室を飛び交う蚊の羽音は、私たち人間をイライラさせます。
しかし、蚊たちの中では、その羽音は魅力的なものです。
なぜなら、蚊は交尾相手を探すのに、互いの羽音とそれを識別する聴覚を利用するからです。

例えば、全世界の熱帯・亜熱帯地域に生息する「ネッタイシマカ(学名:Aedes aegypti)」のメスは、羽を約500Hzの周波数で羽ばたかせます。
それを聞いたオスはすぐに近くへ飛び立ち、自分の羽音を約800Hzに調整して響かせ、交尾相手と待ち合わせします。
互いの居場所が分かると、彼らはすぐに引き寄せられ、数秒間の空中交尾を行い、その後は別々の道へと分かれます。
ちなみに、一度交尾したネッタイシマカのメスは、二度と他のオスと交尾することはありません。
オスの精子を蓄えることができるため、一生その精子を利用して産卵するのです。
対照的に、オスは交尾後も精子を作り続けるため、常に新しいパートナーを探し、新たなメスと何度でも交尾しようとします。
交尾を繰り返すオスの蚊によって、蚊はどんどん増えてしまうのです。
蚊の個体数の増加は、蚊が嫌いな私たちを一層イライラさせるだけではありません。
ネッタイシマカは吸血する際の唾液で黄熱、デング熱、ジカ熱などの感染症を媒介する害虫であるため、人間にとって脅威なのです。
実際、ネッタイシマカによって年間4億人が感染し、そのうち約1億人が病気を発症しています。
では、ネッタイシマカの個体数を減らすために、効果的な方法はあるでしょうか。
モンテル氏ら研究チームは、ネッタイシマカの交尾に不可欠な「聴覚」に着目し、新たな蚊対策の道を開こうとしました。