県の魚なのに、なぜ“正式な種”ではなかった「ムサシトミヨ」
ムサシトミヨは、トゲウオ科トミヨ属に属する体長3.5〜6センチメートルの淡水魚です。
水温10〜18度ほどの冷たくきれいな湧き水があり、水草が茂る細い川に生息しています。
背ビレ、腹ビレ、尻ビレにはトゲがあり、敵から身を守るときに役立つと考えられています。
そして寿命は約1年と短く、「オスが巣を作って子育てをする」珍しい魚としても知られています。
この魚は、埼玉県では特別な存在です。
1991年には埼玉県の「県の魚」に、2011年には「熊谷市の魚」に指定されました。
また現在、野生での生息地は熊谷市にある元荒川の上流部に限られており、環境省や埼玉県のレッドリストでは絶滅危惧IA類に分類されています。
つまりムサシトミヨは、地域では昔から「守るべき貴重な魚」として扱われてきたのです。
しかし、分類学の世界では事情が違いました。
ムサシトミヨは1960年代初めには、関東地方に生息する未記載のトミヨ属魚類として報告されていました。
にもかかわらず、正式な新種記載は行われないまま、60年以上が過ぎていたのです。
生物学では、ある生き物が「新種らしい」と知られているだけでは正式な種にはなりません。
標本をもとに形や骨格を詳しく調べ、他の種とどう違うのかを示し、基準となる標本を定め、論文として公表する必要があります。
今回の研究では、国立科学博物館、東京大学総合研究博物館、鹿児島大学総合研究博物館などに収蔵された標本に加え、さいたま水族館から提供された生きた個体も調査されました。
その結果、ムサシトミヨは近縁種と似ている部分を持ちながらも、ヒレの数、鱗板、椎骨、骨格構造、体色、繁殖期のオスの色などの組み合わせによって、他のトミヨ属魚類と区別できることが示されました。
では、なぜこの魚はこれほど長く正式記載されず、今回ようやく新種として認められたのでしょうか。
より詳細な結果と、その意義を次項で見ていきます。




























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