牛のげっぷは、なぜ地球温暖化を起こすのか?

牛のゲップはメタンを大量に含む
牛のげっぷが温暖化に関係していると聞いても、最初はピンと来ないかもしれません。
「あのげっぷ」に地球環境を変えるほどの威力があるとは到底思えないからです。
けれど牛のげっぷには、メタンガスが大量に含まれています。
このメタンは、よく聞く二酸化炭素と比べて、何十倍もの強さで地球を温めてしまう、なかなか厄介な気体です。
世界の人間活動から出るメタンのうち、牛や羊といった反芻動物だけで、その3割近くを占めているとされています。
なぜ牛だけが、これほどメタンを出してしまうのでしょうか。
理由は、牛のお腹のなかにあります。
牛は反芻動物と呼ばれていて、胃を4つも持っています。
なかでも一番大きいのが第一胃で、ルーメンとも呼ばれ、ここが牛の消化のメインステージになっています。
この第一の胃のなかには、目に見えないほど小さな微生物たちが、ぎゅうぎゅう詰めで暮らしています。
牛が口にした硬い植物の繊維は、まずこの微生物たちに分解してもらわなければ消化できません。
牛は、胃のなかに「専属の解体チーム」を住まわせているわけですね。
このとき微生物たちが働いた副産物として、水素ガスと二酸化炭素が放り出されます。
それをわざわざ拾い集めて、せっせとメタンに作り替えてしまう生き物が、第一胃の中にはもう一種類いるのです。
「メタン生成古細菌」と呼ばれる、メタンを作るのが大好きな小さな生き物の仲間です。
この仲間は、じつは私たちのよく知る細菌とはちがうグループ(古細菌)に属しますが、本記事では読みやすさのために「メタン菌」と呼ぶことにします。
水素と二酸化炭素を組み合わせてメタンに変える、いわば小さな化学プラントのような働きをしています。
こうしてできたメタンを、牛は自分の体では使えません。
そこでげっぷとして外に出してしまうのです。
これが、牛のげっぷ=メタンの正体です。
胃袋の中の共犯者
ところがこの話には、長らく見過ごされてきた登場人物がもう一人いました。
それが繊毛虫と呼ばれる、小さな生き物です。
繊毛虫は、細菌よりずっと大きく、構造もずっと複雑です。
私たち人間と同じ「真核生物」(核をもつ生き物)という大きなグループに属する、本格的な小さな生き物と言えるでしょうか。
表面に短い毛がびっしり生えていて、それを使って動いたり食べたりしています。
その毛が「繊毛」、繊毛をまとった生き物だから繊毛虫、というわけです。
第一胃に住む微生物の重さで見ると、繊毛虫は最大で全体の4分の1ほどを占めることもあります。
決して脇役ではありません。
そして昔から、ある不思議な事実が知られていました。
繊毛虫が多い牛ほど、げっぷのメタンも多くなるのです。
実験で繊毛虫を取り除くと、メタン排出量が最大で3割以上も減ることもわかっています。
ところが、繊毛虫自身はメタンを作ってはいません。
それなのに、繊毛虫がいるとメタンが増える。
いったい、なにが起きているのでしょうか。
有力な仮説はありました。
「繊毛虫が、メタンを作る微生物に水素を渡して、メタン作りを応援しているのではないか」というものです。
水素はメタンの材料ですから、誰かが気前よく水素を供給してくれれば、メタン菌は喜んでメタンをどんどん作ってくれるはずだ、と(Newbold ら, 2015;Firkins ら, 2020)。
しかし、ここからが難問でした。
繊毛虫の細胞のいったいどこで、どんな仕組みで大量の水素が作られているのか、これがおよそ50年にわたって、誰一人として決定的に示せなかったのです。
場所も、装置も、謎のままでした。





























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