牛のゲップを「メタンまみれ」にしてた真犯人、ついに判明
牛のゲップを「メタンまみれ」にしてた真犯人、ついに判明 / Credit: Xie et al., Science, 392, eadv4244 (2026)
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牛のゲップを「メタンまみれ」にしてた真犯人、ついに判明 (4/4)

2026.05.29 19:10:21 Friday

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繊毛虫は何を取り込んでしまったのか?

繊毛虫は何を取り込んでしまったのか?
繊毛虫は何を取り込んでしまったのか? / Credit:Canva

ここからは過去の研究成果を含めて、繊毛虫がなぜ水素ボディを獲得したのか進化の歴史を遡ってみましょう。

私たちの祖先は、もともと核を持つ単細胞の生き物(真核生物の祖型)で、その細胞の中に酸素呼吸が得意な細菌(αプロテオバクテリア)をまるごと一匹、飲み込んだと考えられています。

普通なら消化されてしまうはずのその細菌が、なぜか消化されずにすっかり住み着き、長い時間をかけて宿主と協力関係を結び、最終的に細胞の部品(細胞小器官)になりました。

これがミトコンドリア(細胞のエネルギー工場)の起源です。

そしてこの過程が、ミトコンドリアは二重の膜に包まれている説明にもなります。

おおまかにいえば、宿主が細菌を飲み込んだときに包んだ袋が外側の膜になり、飲み込まれた細菌そのものが持っていた細胞膜が内側の膜として残ったからだと考えられています。

さらに、ミトコンドリアの中にはいまも独自のDNAが残っています。

これは20億年前の細菌時代の名残りで、私たちの細胞のなかに、いまも遠い先祖の「居候の子孫」が暮らし続けているのです。

では、水素ボディの前から知られていた水素を作る細胞小器官「ハイドロジェノソーム」は何者なのでしょうか。

その正体は、酸素のない環境に適応するなかで変身したミトコンドリアの親戚だと考えられています。

決定打となったのは、嫌気性の繊毛虫ニクトテルスのハイドロジェノソームの中に、なんといまも昔のミトコンドリアのDNAが残っていたことです。

先祖がミトコンドリアだったという、これ以上ない直接的な証拠でした。

つまりハイドロジェノソームは、いったん細菌を丸飲みして作ったミトコンドリアを、酸素のない環境で再び作り替えた結果なのです。

二重膜は、ここでも「かつて細菌を飲み込んだ時の名残り」をきちんと保ち続けています。

では、今回の水素ボディは何を取り込んだのでしょうか。

水素ボディは、膜が一枚しかありません。

「飲み込んだ袋+飲み込まれた生き物の膜」というあの典型的な二段重ねが見当たらないのです。

論文を率いた中国科学院水生生物研究所のチームは、水素ボディは細胞のなかにもともと存在していた内膜系(ないまくけい。小胞体やゴルジ装置といった、細胞のなかで物質を運ぶ袋のシステム)から派生してきた可能性が高いと推測しています。

つまり繊毛虫が、自分の細胞のなかにあった既存の袋を改造して、水素工場として使い始めたわけです。

「でも、水素を作る能力はどこから手に入れたのでしょうか?」

ここで登場するのが、進化生物学の重要なキーワード「水平伝播」です。

これは、ある生き物が、まったく別の生き物から遺伝子だけを取り込む現象のことです。

子孫に縦に受け継がれる「垂直」の遺伝に対して、横に飛び込んでくるので「水平」と呼ばれます。

論文の著者たちは、水素ボディで酸素を取り除く酵素(FDP)について、ファーミキューテス門の細菌(ルーメンに住む細菌たち)から水平伝播で取り込まれたらしい、と示しています。

一方、水素を作る酵素(ヒドロゲナーゼ)のほうは、どこから来たのかまだ不明ですが、既知のどの真核生物・原核生物のものとも違う、独自のつくりをしていました。

つまり酸素を取り除く道具については、まわりの細菌から遺伝子を借りてきた可能性があますが、水素を作る道具のほうはまだ起源不明となっています。

ですが繊毛虫はこうした道具を、自前の細胞内の袋に組み込んで、最終的に酸素を取り除きつつ水素をつくる工場として使っていたようです。

周囲から遺伝子を借りたり、独自の工夫を重ねたりして、もともとあった袋を水素工場の現場へと作り替えた。

そんな、ちょっと変わった成り立ちをした細胞小器官だった可能性が高いのです。

生命というものは、あの手この手で、新しい能力を手に入れてきたことがわかる事例です。

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