画像
ある寄生アリは、ホスト女王を「敵」と誤認させ、その娘たちに殺害させる / Credit:Canva
insect

洗脳して「娘に実母を殺させる」教唆型の寄生アリを発見

2025.11.18 11:30:59 Tuesday

他者がある家族の娘を洗脳して実母を殺害させる――

そんなおぞましいエピソードは、創作ですらめったに登場しません。

ところが今回、現実の生き物の世界で、まさにこの「娘による実母殺し」を誘発する寄生戦略が見つかりました。

この発見を報告したのは、九州大学の髙須賀圭三助教らの研究グループです。

社会寄生性アリの新女王が、化学物質を使って寄主(ホスト)コロニーの働きアリを“操作”し、実母であるホスト女王を攻撃・殺害させるという、前例のない寄生戦略を明らかにしたのです。

研究成果は 2025年11月17日、『Current Biology』誌に掲載されています。

社会寄生性ケアリ2種はホストワーカーに実母である女王の殺害を強要する https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/1341 Meet the parasitic invader that tricks ants into killing their own queen https://newatlas.com/biology/parasite-ants-kill-queen/
Socially parasitic ant queens chemically induce queen-matricide in host workers https://doi.org/10.1016/j.cub.2025.09.037

寄生アリは巣をどうやって乗っ取る?

アリやハチの世界には「社会寄生性」と呼ばれる奇妙な生活史が存在します。

これは、自分では巣づくりや子育てを行わず、他のアリの巣に侵入して、そこで働くアリたちの労働力を乗っ取るという生き方です。

今回注目されたのは、寄生形態の中でも「一時的社会寄生性」と呼ばれるタイプです。

新女王がホストの巣に単独で入り込み、まず中にいるホスト女王を排除したうえで、残された働きアリに自分の卵を育てさせます。

やがてホスト側の働きアリが寿命を迎えると、巣は寄生種の子孫だけに入れ替わります。

この生活史において最大の難所は、守りの固いホスト女王をどう排除するかという点です。

これまで知られていた排除方法は、寄生女王が直接ホスト女王の首を噛み切る「断首」に近い行動だけでした。

つまり、直接的な方法以外はよく分かっていなかったのです。

今回、研究チームは、ケアリ属に属する二つの社会寄生性アリ、テラニシクサアリ(Lasius orientalis) とアメイロケアリ(Lasius umbratus)に注目しました。

実験では野外で採集した寄生新女王に、あらかじめホストの匂いをまとわせる処理が行われました。

これは、寄生女王がホスト巣の仲間として認識され、警戒されずに近づくための重要な工程です。

その後、ホスト種であるキイロケアリ(Lasius flavus)やトビイロケアリ(Lasius japonicus)のコロニーに寄生女王を侵入させ、巣内での行動を詳細に観察しました。

寄生女王がホスト女王に接近したとき、研究者たちは予想を大きく超える行動を目撃することになります。

次ページホスト女王を「敵」と誤認させ、娘たちに殺害させる

<

1

2

>

人気記事ランキング

  • TODAY
  • WEEK
  • MONTH

Amazonお買い得品ランキング

スマホ用品

昆虫のニュースinsect news

もっと見る

役立つ科学情報

注目の科学ニュースpick up !!