なぜ「テトリス」なのか?
トラウマ体験は当人に強い不安やストレス、恐怖を与えます。
そしてその体験はのちに「侵入記憶」として、本人の意思とは無関係に、脳内に突然フラッシュバックすることが多々あるのです。
侵入記憶は普通の記憶よりも生々しく感情的に強烈で、コントロールが難しい特徴があります。
これらの記憶は、元の出来事を思い出させるようなきっかけによって引き起こされる場合もあれば、明確な原因がないまま自動的に現れることもあります。
侵入記憶は、特に心的外傷後ストレス障害(PTSD)のある人に多く見られるものです。
視覚イメージ、音、さらには身体感覚など、トラウマ体験に関連する感覚が再現されることもあります。
このような記憶は、集中力の低下、睡眠障害、日常生活への支障をもたらします。

研究チームはこうした背景の中で「侵入記憶の定着を防ぎ、思い出さなくなるような効果的な方法はないか」と模索し続けてきました。
そうしてたどり着いたのが「テトリス」です。
一体なぜか?
侵入記憶は、文章で考える「思考」ではなく、強烈な視覚イメージ(たとえば事故現場の光景など)として現れることが多い記憶を指します。
つまり、「目に浮かぶ」タイプの記憶です。
このため、記憶が脳内に保存・再生されるときには、特に視覚空間処理(イメージを心の中で組み立てたり動かしたりする機能)が使われることがわかっています。
一方、テトリスでは、ブロックの形を回転・配置することを常に頭の中で考え続けますよね。
この作業は、まさに視覚的なイメージ処理を集中的に使わせます。
要するにテトリスをやっている間、脳の中では視覚イメージを操作する能力がフル稼働していて、新たなトラウマ記憶を再構築するためのリソースが足りなくなる、と考えられているのです。
特にトラウマ直後や思い出した直後にテトリスを行うと、その記憶の定着や再生が弱まるのではないかとチームは推測しました。
そこで実際に、テトリスを用いた実験を行ったのです。