人は音楽を身体のどこで感じているのか?
人は音楽を身体のどこで感じているのか? / Credit:canva
psychology

人は音楽を身体のどこで感じているのか?

2024.03.08 Friday

素晴らしい楽曲を聞いたとき、鳥肌が立つような感覚を抱いたり、思わず身体が動いてしまうことがあります。

ダンスが基本的に音楽とセットになった文化であるように、音楽に対する感動や快感は身体と深く結びついています。

しかしヘビメタなら頭を振りたくなったり、ディスコミュージックなら身体を揺すりたくなるなど、音楽の種類によって動かしたくなる体の部位は異なってきます。

これは文化圏によって異なる舞踊の形態がある理由とも関連している可能性があります。

そこでフィンランドのトゥルクPETセンター(Turku Pet Center)の研究チームは、人間が音楽を身体のどの部位で感じているのか? そしてそこに文化間の違いがあるのかを調査しました。

そしてこの研究によると、人が音楽を身体で感じる感覚には文化や学習的な要因よりも、生物学的な構造や本能に根ざした要因が大きい可能性を示唆しているといいます。

研究の詳細は、2024年1月25日付の『Proceedings of the National Academy of Sciences』誌に掲載されました。

Music causes similar emotions and bodily sens | EurekAlert! https://www.eurekalert.org/news-releases/1032819
Bodily maps of musical sensations across cultures | PNAS https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2308859121

優しい曲は胸に響き、ハッピーは手足に広がる

音楽は、構造や感情によって私たちの身体に異なる影響を与えます。

たとえば、曲が持つメロディーやリズム、楽器などの「構造的特徴」や、その曲が伝える「感情的内容」によって、私たちは元気をもらったり、悲しくなったりします。

音楽を聴いているときに足を動かしたくなったり、心が暖かくなったり、鳥肌が立ったりする体験も、これら音楽の特徴に大きく影響するものです。

しかし、音楽の特徴が主観的な身体感覚とどの様に繋がっているか、またその感覚が文化間で共通しているかについては、まだ完全には明らかにされていませんでした。

そこで、フィンランドにあるトゥルクPETセンターの研究チームは、音楽によって引き起こされる感覚が身体のどこで発生するかと、そこに文化間の違いがあるのかを調査しました。

本研究に参加したのは、地理的にも文化的にも対照的な、東アジア(中国)と西欧・北米の1,500人です。参加者は、「ハッピー、悲しい、怖い、優しい、攻撃的、ダンサブル/グルーヴィー」の6つのカテゴリーに区分できる72曲(西洋36曲、中国36曲)を聴き、音楽を聴いているとき身体のどの位置で感じるか回答してもらいました

この結果を研究チームは、統計的に処理し「身体感覚マップ(BSM)」として視覚化しました。

これを見ると、音楽によって引き起こされる身体感覚と感情は、文化を超えて一貫していることがわかります。

西洋と東アジアのリスナーにおける、曲のカテゴリーごとに誘発される身体感覚マップ。曲を聴いたときに活性化が増加した領域を示している。
西洋と東アジアのリスナーにおける、曲のカテゴリーごとに誘発される身体感覚マップ。曲を聴いたときに活性化が増加した領域を示している。 / Credit: Nummenmaa, L, University of Turku

上の図は、欧米と東アジアで同じ楽曲を聞いた際に、身体のどこで音楽を感じるかの回答結果を平均し赤黒(弱い)から白(強い)で視覚化した身体感覚マップです。

両文化の参加者は共通して、優しい曲や悲しい曲は「胸部や頭部で感じ」、不気味な曲は「腹部で感じた」と報告しています。ハッピーでダンサブルな曲は、全身(とくに手足)に感覚をもたらし、攻撃的な曲は、頭部を中心に全身に感覚をもたらしたこともわかりました。

次ページ音楽がおよぼす影響は文化を超える

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