レーズンに潜む“発酵職人”たち
現代のワイン造りでは、ブドウ果汁に「アルコール発酵性酵母(代表例:Saccharomyces cerevisiae)」を人工的に加え、安定した発酵を進めるのが一般的です。
ところが、古代や中世のワイン造りでは、酵母を「添加」する技術はありませんでした。
原料となるブドウやその果皮、もしくは大気中に存在する微生物が自然に発酵を起こしていたのです。
しかし近年の研究で、ブドウの果皮にはアルコール発酵性酵母(S. cerevisiae)はほとんど存在しないことが分かってきました。
では、なぜ人類は古代からワインを造ることができたのでしょうか?
ここで重要な役割を果たしていた可能性があるのが「レーズン」です。
レーズンは、保存のためにブドウを天日干しした食品で、19世紀のヨーロッパではパン酵母の“天然の供給源”として利用されてきました。
「レーズン酵母」と呼ばれるほど、その表面には多様な発酵性微生物が棲みついていたのです。
そこで研究チームは、市販のブドウとレーズンを比較し、微生物叢(さまざまな微生物の集まり)の違いを詳細に調べました。
その結果、レーズンにはアルコール発酵性酵母――特にLachancea属やSaccharomyces属など――が豊富に定着していることが分かったのです。
一方、生のブドウにはカビ(糸状菌)が多く、発酵に向く酵母はほとんどいませんでした。


























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