化石と3Dプリンターでよみがえる「恐竜の楽器」
恐竜の声は、現代まで“謎”として残っています。
鳴き声の証拠は化石として残らないため、どんな音を出していたのか、専門家でもはっきりとは分かりません。
しかし近年、「ハドロサウルス」と呼ばれるカモノハシのような口を持つ草食恐竜の一部は、頭部に大きなトサカ(頭飾り)を持っていたことが知られています。
このトサカの内部は空洞になっていて、まるで楽器の共鳴室のような構造をしていました。
この「楽器のような頭蓋骨」こそ、ブラウン氏が目を付けたポイントです。

彼女は音響アーティストであり、コンピューター工学にも詳しい異色の研究者です。
2011年、アメリカを横断中に立ち寄った博物館で、ハドロサウルス科の仲間であるパラサウロロフスの“復元された鳴き声”を聴いたとき、「恐竜も歌っていたかもしれない」と衝撃を受けました。
そこから「自分で恐竜の声を作り出したい」と思い立ち、恐竜の頭蓋骨をモデルにした本物そっくりの楽器を作り始めたのです。
ブラウン氏はまず、コリトサウルスという別のハドロサウルスの化石頭蓋骨のCTスキャン画像を入手。
そのデータをもとに、トサカや気道(空気の通り道)を3Dプリンターで再現しました。
さらに機械式の「喉頭(声帯)」部分を組み込んで、まるでトランペットのように息を吹き込むことで、恐竜の鳴き声を模した音が響くように設計しました。
実際にこの楽器を鳴らしてみると、幽玄な低い音から、息の強さによっては力強い咆哮のようなサウンドまで、驚くほど多彩な音色が生まれます。
古生物学者たちは、ハドロサウルスのトサカが「仲間への合図」「天敵への警告」「求愛のアピール」などに使われていたと考えており、こうした再現音がその仮説に新たなリアリティを与えています。
この楽器プロジェクトは「ダイナソー・クワイア(Dinosaur Choir)」と名付けられ、世界各地の科学イベントや音楽フェスで話題に。
2015年にはオーストリアのサウンドアート・コンペで表彰され、恐竜ファンだけでなく音楽・科学の両分野から注目を集める存在となりました。