質量の起源は『空間そのもの』とする新理論が発表
質量の起源は『空間そのもの』とする新理論が発表 / Credit:川勝康弘
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質量の起源は『空間そのもの』とする新理論が発表 (2/3)

2025.11.11 18:30:58 Tuesday

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7次元空間が『重さ』を生む仕組み

7次元空間が『重さ』を生む仕組み
7次元空間が『重さ』を生む仕組み / Credit:川勝康弘

空間のゆがみが素粒子に質量を与えることはあるのでしょうか?

答えを得るため研究者たちは、まず見えない7次元空間の「ねじれ」がどのように変化して安定するのかを数式で描き出すことにしました。

とはいえ、実際に7次元の空間を観測することはできません。

そこで彼らは、数学という望遠鏡を使って理論上の空間の形を解析したのです。

難しい計算の連続ですが、身近なたとえで言えば、まるで「ねじれたゴムシートが、時間とともにどんな形に落ち着くか」を調べるようなものです。

最初、空間は不安定なねじれを持っていました。

ところが計算を進めていくと、そのねじれはだんだんと整っていき、ついに一つの安定した状態に落ち着くことが分かりました。

いわば、空間自身が「これが一番落ち着く形だ」と決めるように自然と安定点を見つけたのです。

そして、その安定した「ねじれ具合」を数値に置き換えると、驚くべき一致が見られました。

その値は、ヒッグス理論で扱われる重要な数値、約246ギガ電子ボルト(GeV)と同じスケールにありました。

粒子が実際に質量を獲得する際には、その粒子とヒッグス場がどれくらい強く相互作用するか(いわゆる「結合の強さ」)が重要です。

この結合の強さに「246GeV」を掛け合わせることで、各粒子固有の質量が生まれます。

つまり、粒子によって「ヒッグス場との相互作用の強さ」が異なるため、得られる質量も粒子ごとに異なります。

もちろん、これは偶然の一致ではなく、研究チームが理論内でその値を真空の基準(真空期待値)として設定した時に、モデル全体がうまく整合することを示した結果です。

この数値が空間のねじれから飛び出してきたというのは、非常に象徴的なものと言えるでしょう。

つまり、ヒッグス場という外部の特別なエネルギー場を持ち込まなくても、空間そのもののねじれ構造を用いるだけで、粒子に質量が生まれる条件が再現されたのです。

言い換えれば、宇宙の空間は単なる「入れ物」ではなく、それ自体がエネルギーを秘めた「能動的な存在」だったということになります。

ねじれの中に蓄えられたエネルギーがある臨界点を超えると粒子に重さを与える――そんな新しい可能性が理論上見えてきたのです。

さらに解析を進め、研究チームは空間のねじれが素粒子に与える影響にも注目しました。

宇宙には、光を運ぶ「光子(フォトン)」のように質量を持たない粒子と、Wボソン・Zボソンのように重さを持つ粒子が存在します。

両者はどちらも「力を伝える粒子」ですが、なぜ片方は軽く、もう片方は重いのか――これは長年の謎でした。

ヒッグス理論では、この差はヒッグス場との相互作用の強さによって説明されます。

では今回の「ねじれ理論」では、どのように説明されるのでしょうか。

チームが導き出した式を使うと、光子の質量は確かにゼロのままでした。

一方で、WボソンとZボソンの質量を同じ式に代入すると、それぞれ79.9GeVと90.8GeVという観測値(約80GeVと91GeV)に非常に近い数字が出てきました。

これらの式の形は、標準模型のものと同じ構造でした。

ただし、その出どころが異なります。

ヒッグス理論では外部のヒッグス場から質量が与えられるのに対し、この理論では空間のねじれ自体がその役割を果たしているのです。

言い換えると、「質量の設計図」は変わらないまま、建材が別のものに置き換わったようなものです。

同じ建物を違う材料で建てたら見事に立ち上がった――そんな驚きに近い結果でした。

この結果は、単なる偶然の一致ではありません。

WボソンとZボソンが「どのようにして重くなるのか」という現象を、空間の幾何学そのものが再現できたのです。

つまり、ヒッグス場という外側の要素を持ち込まなくても、7次元のねじれ構造の中に「質量を生む仕組み」が自然に備わっていたのです。

それは、宇宙の形そのものが、私たちの世界の物理法則を作り出していることを示唆しています。

次ページ私たちの世界は高次元空間のねじれが投影されたものかもしれない

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