静かに広がる二次中毒のリスク
イノシシの筋肉をネオンブルーに変えた「ジファシノン」とはどのような毒なのでしょうか。
ジファシノンは「抗凝固性殺鼠剤」に分類される化合物です。
その仕組みは、血液を固めるために必要なビタミンKの再利用を担う酵素に結合し、その働きを邪魔するというもの。
ビタミンKが足りなくなると、肝臓は血液凝固に必要な因子を十分に作れなくなり、身体のあちこちで止血ができなくなります。
その結果、動物は見た目には分かりにくいものの、体の内部でじわじわと出血を起こし、重篤な内出血に至ることがあります。
こうした殺鼠剤が問題なのは、標的ではない動物にも被害が広がることです。
・農地などで毒餌をまく
・それをネズミやリスが食べる
・その小動物を、イノシシ・シカ・キツネ・猛禽類などが捕食する
という経路で、毒が食物連鎖をかけめぐり、「二次中毒」として大型の野生動物や、場合によっては人間にも影響します。
実際に、ジファシノンを含む殺鼠剤は、ワシやタカなどの猛禽類、ピューマ、ボブキャット、キツネ、さらに絶滅が危惧されている北方ミミズクやサンホアキンキタキツネなど、多くの捕食動物から検出されたことが報告されています。
ジファシノンは、死んだ動物の組織内ではしばらく活性を保ち、火を通して調理しても完全には分解されないことが問題です。
つまり、「加熱すれば大丈夫」という安心は通用しないのです。
こうした事情を受けて、カリフォルニア州では2024年にジファシノンの使用が大幅に制限されました。
それでもなお、一部の農地では例外的に利用が続いており、今回の「青色イノシシ」のようなケースが発生するおそれがあります。
さらに幅広く見れば、農薬や殺虫剤は人間の健康にも影響を与えます。
多くの研究から、農薬は精子数の減少、糖尿病、がん、アルツハイマー病など様々な健康問題との関連が指摘されています。
そのため、代替策として提案されているのが、「統合的害虫管理(IPM)」という考え方です。
これは、
・自然の捕食者を活用する
・フェンスや罠、通気口などの物理的なバリアを設置する
・光や音(ラジオ音声など)で動物を近づけない
といった複数の方法を組み合わせ、化学的な毒に頼り切らない形で被害を減らしていこうとするアプローチです。
今回のネオンブルーに染まったイノシシの肉は、人間がまいてきた毒が野生動物の体内にたまって起こった問題でもあったのです。

























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