排卵後になぜ意欲は下がるのか? 「着床の窓」に隠されたリスクと身体の反応
人間の性的な意欲は、一定の周期で変動することが知られています。
特に、妊娠の可能性が最も高まる排卵期(Ovulatory phase)において、女性の性的なモチベーションが高まることは、過去の多くの研究で確認されてきました。
生命を残すという生物の根本的な目的を考えれば、この時期に意欲が高まることは理にかなっています。
その一方で、こうした研究では、女性が逆に性的なモチベーションを大きく低下させる時期もあることが確認されていましたが、そちらの生物学的な理由は不明なままでした。
これまでの研究は、排卵期に起こる意欲の「上昇」にばかり注目しており、その後に見られる意欲の「低下」については、あまり深く掘り下げられて来なかったのです。
この疑問を解明するために研究チームが着目したのが、「着床の窓(Implantation window)」と呼ばれる期間でした。
これは排卵からおよそ5日から9日後にあたる、受精卵が子宮内膜に付着しやすくなる時期を指します。
赤ちゃんを受け入れるための大切な期間ですが、実はこの時、母体の免疫システムには大きな変化が起きています。
本来、免疫システムは自分以外の異物を攻撃して排除する役割を持っていますが、父親の遺伝子を半分持った受精卵も、母体にとっては半分「異物」です。
そこで子宮は受精卵を攻撃してしまわないよう、この着床の窓の期間だけ子宮内膜に限り局所的に免疫の攻撃力を弱める(免疫抑制を行う)のです。
免疫が弱まるということは、同時に細菌やウイルスなどの病原体の影響を受けやすくなる「感染に弱くなり得る時期」が生まれることを意味します。
研究チームは、この感染リスクが高まる時期に性行動を行うと母体が危険にさらされるため、それを防ぐために自然と性的な意欲が低下するのではないか、と考えました。
この仮説を検証するため、研究チームはアメリカの大学生を対象に行われた3つの日記調査のデータを統合し分析しました。調査には合わせて約100人が参加しており、そのうち条件を満たした約80人分の記録が分析対象となっています。
ここでいう日記というのは、日々の出来事を自由に書く日記ではなく、研究のために毎日決まった質問に答えてもらった記録を指します。
パートナーとの性行為は相手の都合にも左右されるため、研究チームはこの記録の中で「本人の中の欲求」を捉えやすい指標として、自己申告による「性的欲求(Sexual desire)」の強さと、「自慰行為(Masturbation)」の有無に注目しました。
そして分析した結果、研究者たちが予測した通り、着床の窓の期間において女性の性的なモチベーションが明確に低下することが確認されたのです。
これは、「排卵期に高まった意欲が元に戻っただけ」というだけではありませんでした。
排卵期や月経の時期を除いた他の通常の日々と比べても、着床の窓の期間は有意に欲求レベルが低くなっていたのです。
つまり、人間の身体は、受精卵を受け入れるという重要なミッションを成功させるため、感染症から身を守るための行動変容を無意識のうちに起こしている可能性が示されました。



























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