恋愛の自由を捨て、遺伝子も断捨離して「究極の社畜帝国」を手に入れた生物がいた
恋愛の自由を捨て、遺伝子も断捨離して「究極の社畜帝国」を手に入れた生物がいた / Credit:Canva
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恋愛の自由を捨て、遺伝子も断捨離して「究極の社畜帝国」を手に入れた生物がいた (2/3)

2026.02.09 20:00:27 Monday

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遺伝子を断捨離する逆進化で大帝国を作った生物

遺伝子を断捨離する逆進化で大帝国を作った生物
遺伝子を断捨離する逆進化で大帝国を作った生物 / Credit:Nutritional specialization and social evolution in woodroaches and termites

高度な社会性はなぜうまれたのか?

この謎に答えるにはDNAを詳しく分析するしかありません。

ただ、これまでに発表されていたゴキブリやシロアリのゲノムの多くは、「短い断片だけを大量に読む方式」で解読されていました。

この方法だと、似た配列がくり返している部分などがつながりにくく、「どの遺伝子が何個あるのか」を正確に数えるのが難しくなります。

そのため、「社会性の進化にともなって遺伝子がどのように増えたり減ったりしたのか」を比べるには、少し心もとないデータしかなかったのです。

そこで今回の研究では、3種類のゴキブリ、1種類のウッドローチ、4種類のシロアリ、あわせて8種のゲノムを、新しい「長くて精度の高い配列読み取り法」であらためて解読しました。

さらに、すでに公開されていた七種分のゲノムも、同じ基準で見直しています。

こうすることで、「ゴキブリからウッドローチ、そしてシロアリへ」という進化の道すじにそって、遺伝子の数や種類がどのように変化してきたのかを、公平な条件で比べられるようにしたのです。

さらに研究ではゲノムの比較にくわえて、研究チームは「どの遺伝子が、いつ、どのくらい働いているか」という点も調べました。

するとシロアリたちの進化に驚くべき事実が隠されていることがわかりました。

まず大きなポイントは、ゴキブリからウッドローチ、シロアリと進化するにつれて、ゲノムの大きさと遺伝子の数が段階的に減っていたことです。

特にシロアリでは、糖や脂肪の代謝、毒物の分解、さまざまな味やにおいを感じるための遺伝子がまとめて少なくなっていました。

調べた種類をならべてみると、ゴキブリはシロアリより平均で約1.8倍も多くの遺伝子を持っていました。

これは、「何でも食べる雑食」から「枯れ木専門」の生活に切り替えたことで、かえって余分な装備を手放し、木というニッチな資源に特化した結果だと解釈できます。

次に重要なのが、精子の「しっぽ」を動かすための遺伝子が、シロアリでごっそり失われていたことです。

普通のゴキブリやウッドローチでは、精子は長いしっぽを持ち、自分で泳いでメスの体内で競争しやすいと考えられます。

シロアリの仲間の中には、一番原始的なグループで、しっぽが100本近くもついている種もいて、精子の形の極端さだけでも進化のふり幅がわかります。

しかし多くのシロアリでは、しっぽがほとんどなく自力で泳げない精子しか作られません。

精子どうしの競争が起こらないということは、女王が何匹ものオスと交尾して「どのオスの子か分からない」という状態になりにくい、つまり最初から王と女王が一対一でコロニーを始める一夫一婦制が前提になっていた可能性を強く示しています。

さらに研究は、「枯れ木のような貧しいエサしかないのに、どうしてシロアリだけが大量の子どもを育てられるのか」という疑問に手がかりを与えています。

枯れ木には、セルロースという繊維はたくさんふくまれていますが、タンパク質や脂肪、ビタミンなどは非常に少なく、栄養バランスが悪い食べ物です。

もし人間がパンの耳だけで一生暮らそうとしたら、きっと体を維持できないでしょう。

それに近いくらい「しょぼいごはん」なのです。

それでも彼らが生きていけるのは、腸の中に特別な原生生物や細菌を住まわせているからです。

これらの共生微生物が、かたい木の繊維を分解して、の体が利用できる栄養に変えてくれます。

さらに、その微生物を子どもに受けわたすために、親が自分のウンチや腸の液を子どもに口移しで与える、ちょっとびっくりするような「食事介助」も行われています。

こうしたしくみがあるため、木ゴキやシロアリの家族は、同じ丸太や同じ巣の中で長いあいだ一緒に暮らすようになりました。

また研究では、王や女王と一生社畜の分岐点も手がかりが得られました。

兄や姉にあたるワーカーたちがどれだけエサを与えるかによって、その幼虫が「一生ワーカーになるコース」に進むか、「将来の王や女王候補として残されるコース」に進みやすくなるのです。

今回調べられたシロアリの一種では、よく世話され大量のエサを与えられた幼虫はむしろ一生ワーカーになるコースに入りやすく、手薄な世話や少量のエサしか与えられなかった幼虫は王や女王候補として残されやすくなります。

えりすぐりの幼虫にだけ「ローヤルゼリー」(女王用のエサ)をたっぷり与えるハチと比べて逆転しているのが興味深い所です。

以上の結果から、枯れ木という貧しいエサに特化したことが、腸内微生物との共生や親による濃厚な子育てを生み、家族が同じ木の中で暮らす生活を作り出しました。

そのうえで、一夫一妻のペアががっちり固定されたことで、精子のしっぽをつくる遺伝子を手放しても支障がなくなり、兄弟どうしの遺伝的な結びつきがとても強くなるしくみとかみ合ったと考えられます。

そこに、栄養センサーとそれを検知する仕組みが関わりエサの配分しだいで「一生働き手」と「将来の王・女王」を作り分けるシステムが進化してきたと考えられます。

この遺伝子の断捨離とも言える進化は、王と女王の一夫一妻制と生涯社畜たちからなる安定した社会と歩調を合わせて進み、そのしくみを支える一因になったと考えられます。

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