遺伝子を捨てる進化もある

多くの人は「進化」と聞くと、新しい遺伝子が生まれて機能がどんどん増えていくイメージを思い浮かべると思います。
しかし今回の結果は、そのイメージにちょっとブレーキをかけます。
ゴキブリから木ゴキ、そしてシロアリへとたどる系統をならべてみると、ゲノムの大きさも遺伝子の数も、むしろだんだん少なくなっていました。
しかも失われた遺伝子の中には、精子の「しっぽ」をつくるものや、さまざまな栄養源に対応するための代謝や感覚に関わるものがふくまれていました。
研究チームは、これは「貧しい枯れ木だけを食べ、巣の外にあまり出ない」という生活への適応として、役に立たなくなった遺伝子を、長い時間をかけてそぎ落としていった結果だと解釈しています。
つまり、社会性の進化は「新しい遺伝子をたくさん足したから」ではなく、「生活に合わない機能を思いきって捨てたから」でも起こりうる、ということです。
これは、進化の教科書のイメージを少し揺さぶる、大きな意義をもつ結果だと言えるでしょう。
得る代わりに捨てるという選択が高度な社会性につながるというのは、意外でもあるでしょう。
ただ「全てのシロアリが遺伝子の断捨離で社会を作った」とまでは言い切れません。
地球上には3000種前後のシロアリがいるとされており、その中には、土を食べたりキノコを育てたりと、また違った暮らしをしているグループも多くふくまれます。
今回明らかになった「遺伝子の削減」や「精子のしっぽの消失」、「栄養とホルモンで階級を決めるしくみ」が、どの範囲まで共通しているのかは、これから確かめていく必要があります。
それでも、この研究が開いた道は広く、これからの展望はたくさんあります。
まず、より多くのシロアリやゴキブリのゲノムが読まれれば、「どのグループでどんな遺伝子が失われたのか」「どの栄養センサーやホルモンの使い方が共通で、どこからが種ごとのアレンジなのか」を、もっと細かく追いかけられるようになります。
さらに、枯れ木を分解するしくみそのものは、バイオマスエネルギーやリサイクル技術にもつながる可能性があります。
シロアリや木ゴキが持っている腸内微生物と、その活躍を支える遺伝子・ホルモンネットワークをまねすれば、人間が手に負えなかった木質のゴミを、より効率よく処理する技術が生まれるかもしれません。
























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