毎秒1000個の精子工場をどう止めるか

男性用避妊薬の開発が難しい理由は、単純に「止めるべき相手の規模が桁違い」だからです。
女性は通常、月に1回1個の卵子を排出します。
一方、男性の精巣は毎秒およそ1000個以上の精子を作り続けている巨大な工場のようなもの。
この工場を一時的に止めて、しかも望んだときにはすぐ再稼働できるようにするのは、とんでもなく難しい技術課題でした。
これまでの男性避妊薬の候補は、そのほとんどが男性ホルモン(テストステロン)をいじるものでした。
しかしホルモンに手を加えると、気分の変動や性欲の変化、肝機能への影響など、副作用が課題になりやすく、そのため臨床試験が難航するケースが相次ぎました。
では、ホルモンを使わずに精子工場をどこで止めればよいのでしょうか。
精子ができあがるまでの過程は、大まかに3つの段階に分かれます。
第1段階は、精子のもとになる「精子幹細胞」が増える素材調達の段階。
第2段階は、染色体を半分にして組み換える「減数分裂」という部品加工の段階。
第3段階は、しっぽがついて泳げるようになる最終組み立ての段階です。
ここに大きな落とし穴があります。
第1段階を止めてしまうと、素材そのものを失って二度と精子が作れなくなる危険があるのです。
逆に第3段階で止めても、すでにできあがった精子が体に残っていて避妊に失敗する可能性があります。
そこで研究者たちが狙ったのが、ちょうど真ん中の第2段階、減数分裂の前期でした。
ここを短期間だけ止めれば、素材である幹細胞には手をつけず、かつ完成済みの精子も数週間で使い果たされます。


























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