切り離されたナマコ組織が「3年間」生き続ける
動物の体から切り離された組織は、普通そのままでは長く生きられません。
体内から切り離されると、血液や体液による酸素や栄養の供給が途絶え、免疫の防御も失われます。
そのため、切断された組織はやがて壊死し、腐敗していくと考えるのが自然です。
一方で、生物学には「不死化細胞」と呼ばれる有名な例があります。
たとえばヒト由来のHeLa細胞のように、実験室で長く増殖し続ける細胞株は、医学研究に大きく貢献してきました。
しかし、これは基本的に「細胞」を管理された環境で増やす技術です。
では、自然環境で長く生き続ける組織は存在するのでしょうか。
今回、研究チームが注目したのは、棘皮動物に属するナマコです。
棘皮動物にはヒトデやウニも含まれ、腕や内臓などを再生する能力で知られています。
研究の対象となった Psolus fabricii は、冷たい海にすむナマコで、岩などに付着するための管足や、餌を集める触手を持っています。
管足とは、ナマコやヒトデなどに見られる小さな足のような器官で、岩にくっついたり移動したりするために使われます。
これらの部位は自然界でも傷ついたり失われたりしやすく、再生能力を調べるうえで適した組織だと考えられました。
そこで研究チームは、Psolus fabricii の管足、管足がまとまった足裏側の組織、触手、体壁などを切り離し、自然海水が流れる環境で観察しました。
ここで重要なのは、実験が無菌培地ではなく、微生物や有機物を含む自然海水中で行われた点です。
つまり、通常の細胞培養とは逆に、微生物や有機物に満ちた自然環境で、組織がどうなるかを調べたことになります。
結果は驚くべきものでした。
管足や管足がまとまった部分、触手の組織片は傷口を閉じ、細胞活動を維持し、長期間生存しました。
正式な1年間の実験に加え、その後の観察でも、管足や管足がまとまった部分の組織片は3年以上にわたって維持されました。
研究者たちは、こうした組織片を living immortal P. fabricii explants、略してLiPfeと呼んでいます。
今回の成果は、「新しいナマコが生まれた」という話ではなく、切り離された複雑な組織が自律的に治癒し、長く維持されたという発見です。
では、その“ゾンビ組織”の内部では何が起きていたのでしょうか。




















































