少量でもがんリスクは上がるが、心血管系では話が複雑
今回の研究で最もはっきりしていたのは、アルコールとがんの関係です。
研究チームは、調べた10種類のがんで飲酒量の増加に伴うリスク上昇傾向を確認しました。
ただし、その証拠の強さはがんの種類によって異なり、胃がんについては関係の強さを判断するには追加の研究が必要とされています。
特に重要なのは、リスク上昇が大量飲酒だけの話ではなかったことです。
純アルコール量で1日10グラム未満、つまり一般的な標準ドリンク1杯に満たない量でも、咽頭がん、大腸がん、食道がん、乳がん、肝がん、膵臓がん、前立腺がんなどでリスク上昇が見られました。
なかでも最も強い関連が示されたのは、鼻咽頭がんを除く咽頭がんです。
平均的な飲酒量の範囲でも、少なくとも105%のリスク増加があると評価されました。
これは「最大で2倍以上」ではなく、「慎重に見積もっても2倍以上」という意味であり、かなり強い結果です。
また、喉頭がん、大腸がん、口腔がんでは、中程度の証拠によって有害性が示されました。
肝硬変およびその他の慢性肝疾患では少なくとも40%、膵炎では少なくとも22%のリスク増加が示されています。
乳がん、食道がん、肝がん、膵臓がん、前立腺がんでは、証拠の強さはやや弱いものの、飲酒量が増えるほどリスクが高まる傾向は一貫していました。
今回の研究は、アルコールがどのようにがんを起こすかを直接調べたものではありません。
ただ、一般にアルコールは体内でアセトアルデヒドに分解されます。
アセトアルデヒドはDNAを傷つける発がん性物質として知られており、こうした仕組みが、飲酒と複数のがんリスク上昇を結びつける背景の一つと考えられています。
一方で、心血管疾患や代謝疾患、認知症については、がんほど単純ではありませんでした。
2型糖尿病とアルツハイマー病およびその他の認知症では、少量から中程度の飲酒でリスクがわずかに低く見える結果がありました。
虚血性心疾患、虚血性脳卒中、出血性脳卒中でも、低から中程度の摂取でリスクが低く見える傾向はありましたが、証拠は一貫していませんでした。
そして重要なことに、飲酒量が増えると、これらの病気でもリスクは上昇に転じます。
つまり、「少量なら心臓に良いかもしれない」という話だけを切り取ると、全体像を見誤る可能性があります。
研究者たちも、少量飲酒の利益らしき関連については、かなり慎重な姿勢を取っています。
なぜなら、この研究で使われたデータは観察研究が中心だからです。
観察研究では、少量飲酒者の方が健康的な生活習慣を持っていたり、所得や医療アクセスに違いがあったりする可能性を完全には排除できません。
また、全く飲まない人の中に、過去の病気で酒をやめた人が含まれると、「飲まない人の方が不健康」に見えてしまうこともあります。
そのため、少量飲酒でリスクが低く見えたとしても、それをそのまま「酒が健康に良い」と解釈するのは危険です。
今回の研究には限界があります。
まず、対象となった研究の多くは自己申告による飲酒量に依存しており、実際の摂取量とずれる可能性があります。
また、飲む酒の種類、一度に大量に飲むかどうかといった飲酒パターンまでは十分に分けて評価できませんでした。
さらに、研究チームはバイアスを補正したものの、観察研究である以上、測定されていない交絡因子を完全に取り除くことはできません。
とはいえ、この研究が示すメッセージは明確です。
アルコールの健康影響は病気によって異なりますが、少なくともがんについては「少量なら安全」とは言い切れません。
「適量」という言葉の安心感の裏にも、見えにくいリスクがあるのです。





















































