なぜ反時計回りになりやすいのかは不明
この研究で重要なのは、反時計回りの動きが「みんながそうしているから生まれる集団心理」だけでは説明できなかった点です。
人混みでは、歩行者同士がぶつからないように避け合い、その結果として自然に列や流れができます。
しかし今回の反時計回りの偏りは、集団で歩いているときだけでなく、1人で歩いているときにも観察されました。
つまり、集団内の相互作用だけで生じた現象ではなく、一人ひとりの身体や感覚処理に由来する小さな偏りが、全体の流れとして現れている可能性があります。
東京大学の発表では、全体としては反時計回りに動く人が約65%を占めていたと説明されています。
また、反時計回りの動きは、全員が同じ程度に持つ弱いクセというより、その方向に強い選好を示す一部の人が全体平均を押し上げている可能性も示されています。
ただし、なぜそのような偏りが生まれるのかは、まだ分かっていません。
研究者たちは、身体の左右差、脳による感覚情報の処理、筋肉の制御など、生体力学的または認知的な要因が関係している可能性を考えています。
一方で、片眼を隠しても傾向が残ったため、少なくとも「目の使い方だけ」で説明するのは難しそうです。
また、地球の自転によるコリオリの力や地磁気の影響についても、研究者たちは可能性が低いと見ています。
この発見は、一見するとささいなクセのように思えます。
しかし、駅、博物館、スーパー、避難経路など、人が多く移動する場所の設計を考えるうえでは重要です。
もし多くの人が自然に反時計回りへ動きやすいなら、その傾向に合わせた動線の方が、よりスムーズで安全な移動につながるかもしれません。
もちろん、この研究は「人間は必ず反時計回りに歩く」と言っているわけではありません。
あくまで、自由に歩き回る状況では、平均として反時計回りの傾向が現れやすい、という結果です。
私たちは普段、自分の意思でまっすぐ歩いているつもりです。
しかしその足取りには、本人も気づかない小さな偏りがあり、それが集まると人の流れ全体を一方向へ傾けるのかもしれません。
何気なく歩いているだけの私たちの体にも、まだ説明のつかない「クセ」が隠れているのです。






























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