老化とは「仕掛け」ではなく進化の「副作用」だった

「老化」と聞くと、多くの人は、体のどこかに「老化のスイッチ」や「寿命をカウントする時限装置」のようなものが組み込まれている、というイメージを抱きます。
でも、この論文が描く老化の姿は、まったく違います。
老化とは、何かの目的のためにわざわざ仕込まれた仕掛けではありません。そうではなく、選択という見張りがいなくなった「影」の中で、ひとりでに生じてしまう——いわば生物の副作用なのです。
論文の言葉を借りれば、老化は「プログラム(仕込まれた計画)としてではなく、副作用として現れる」となります。
では副作用とはなんでしょうか?
一つ目は「年を取ってからの害が進化で排除されなかった副作用」です。
先にも述べたように、遺伝子の選択は子供を残せる間に主に働きます。逆を言えば、若い時期に害を及ぼし生殖ができなくなる変異なら、その遺伝子は集団から除去されます。
でも、その害が70歳になって初めて現れる変異ならどうでしょうか?
その頃には、持ち主はとっくに子どもを残しており、進化のふるいは、この変異を見逃してしまうでしょう。結果として世代を重ねるうち、こうした「老後にだけ害をもたらす変異」が少しずつ集団に溜まっていくことになります。
これを研究者たちは「変異の蓄積」と呼んでいます。
老化に伴いDNAにダメージが蓄積するという意味ではなく、老後にだけ害をもたらす変異が世代を超えて溜まっていくという意味です。
ふたつめは、もっと皮肉な「若いときに有利な遺伝子が優先された副作用」です。
ある遺伝子が、20代では体を元気にし、繁殖を助けてくれるとしましょう。
ところが同じ遺伝子が、70代になるとがんのリスクを高める。進化の天秤は、若い時期のメリットを圧倒的に重く見積もります。
だから、この遺伝子は「割の良い取引」として集団に残り続けます。
若いうちにしっかり子孫を残せるなら、ずっと先の老後に体を壊すコストは、進化にとっては「許容範囲」なのです。
結果として、若いとき有利な遺伝子そのものが進化に選ばれて集団に広まります。そして、その同じ遺伝子が持つもう一つの顔——老後の害——もまた、種全体に組み込まれていくのです。
これを「拮抗的多面発現」と呼びます。
つまり、私たちが老後に抱える病のいくつかは、若い頃の私たちを支えてくれた遺伝子の、もう一つの顔だということです。
稼ぎ頭だった同じ社員が、年を取ってから厄介者になるのと似ています。
さらに同様の結果は、種を超えた遺伝子の比較でも見えてきます。
研究者たちが、ヒトとマウス(実験用のネズミ)の遺伝子を実際に見比べたところ、老化に関わる遺伝子の多くは、ほかの一般的な遺伝子より5〜11%も高い割合で、種を超えてよく似た形を保っていたことがわかりました。
そして重要なのは、これらの遺伝子の正体が、体の成長やエネルギーの使い方を操作する「つまみ」だったことです。
食べ物が豊富なときは「成長モード」に、乏しいときは「節約モード」に。進化はこのつまみを、マウスからヒトまで大切に守ってきました。
このつまみが保存されているのは「老化のため」ではありません。「若い頃の成長と繁殖を、うまく回すため」です。
ここでも、若いときを有利にするために大事にしてきたものが、後年になって「老化にかかわる遺伝子」として顔を出していることがわかります。


























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